「切断された耳」を這うアリ...鬼才デビッド・リンチの最も「自伝的な映画」に描かれた二面性に迫る
The Oracle
リンチは他の監督との比較にはそぐわない存在だった CHRIS WEEKSーWIREIMAGEーSLATE
<深淵をのぞき込むような映画を撮り続けた奇才監督は、その作風とは対照的に不思議な陽気さを放っていた>
愛されたアーティストが亡くなると、SNSには追悼の言葉があふれる。彼女は天才だった、彼は巨人だった、と。
先頃78歳で死去した映画監督のデビッド・リンチ(David Lynch)も、そんな1人だったのか。もちろん。だが彼をそう表現することに、ほとんど意味はない。
スタンリー・キューブリックやマーティン・スコセッシのような監督なら、そうした言葉もふさわしい。他の監督を彼らと比較できるからだ。しかし唯一無二の存在であるリンチは、そもそも比較というものにそぐわない。
私たちは彼のような才能に二度と出合うことはないだろう。これまでも出合ったことがなかったのだから。
リンチは画家として出発し、ある意味で最後まで画家であり続けた。手で作り、目で見ることができるものを最も愛した視覚芸術家だった。
『デューン/砂の惑星(Dune)』の製作者ラファエラ・デ・ラウレンティス(Raffaella De Laurentiis)は、リンチの2018年の自伝『夢みる部屋(Room to Dream)』(邦訳・フィルムアート社)の共著者クリスティン・マッケナに「デビッドは何時間でも壁に点を打ち続けることができた」と語っている。
よく知られるように、リンチは自作について説明しなかった。彼はその理由を、見る人の視点で作品を理解してほしいからだと述べている。だがそれは同時に、自身の意図を明確に言葉にできなかったためとも思われた。
時には意図さえ持っていないようにも見えた。2001年の傑作『マルホランド・ドライブ(Mulholland Drive)』に登場する不吉な青い箱と鍵について、リンチは「あれが何なのか、私には見当がつかない」と語っている。
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