最新記事
BOOKS

【「べらぼう」が10倍面白くなる!】平賀源内の序文だけじゃない! 蔦重が「吉原細見」にこめた工夫

2025年1月17日(金)16時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
吉原を描いた歌川広重の絵

東都名所新吉原五丁町弥生花盛全図(とうとめいしょ しんよしわら ごちょうまちやよいはなざかりぜんず)歌川広重画  天保(1830~44)頃 東京都立中央図書館蔵:蔦屋重三郎が活躍した頃からやや時代が下った、天保期の吉原の様子を俯瞰して描いた作品。桜並木の美しい仲之町をメインストリートとして、画面左下の大門から、手前側に江戸町一丁目、揚屋町、京町一丁目、奥側に江戸町二丁目、角町、京町二丁目と続く。

<出版物で吉原を盛り上げ、吉原とウィンウィンの関係を築く蔦屋重三郎。「吉原細見」で吉原のブランドを引き上げ、版元としても名をあげた蔦重の工夫について解説する>

1月19日に第3回の放送を控え、早くも話題を呼んでいる大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。

「吉原細見」の判型を大きくして1ページの情報量を増やし、一目でわかりやすいレイアウトにしたり、平賀源内以外にも当時の人気作家に序文・跋文を依頼したりなど、ただの吉原のカタログをエンタメとしての魅力あるガイドブックに仕立て上げた蔦屋重三郎。

今回はドラマを楽しむにあたり、知っておくと細かな描写がより味わい深くなる、「吉原細見」における蔦重の功績についてお届けする。

本記事は書籍『Pen Books 蔦屋重三郎とその時代。』(CCCメディアハウス)から抜粋したものです。

◇ ◇ ◇

画期的な遊女の評判記「一目千本」

蔦屋重三郎は、1750(寛延3)年に江戸・吉原に生まれた。両親ともおそらく、吉原に関係する仕事に従事していたと思われる。重三郎は、幼い頃(一説では7歳頃とされる)に喜多川家へと養子に入り、この喜多川家が経営していた商家が「蔦屋」であった。やがて、吉原大門口の五十間道(ごじっけんみち)で茶屋を営んでいた蔦屋次郎兵衛の軒先を間借りして書店を始め、鱗形屋孫兵衛の『吉原細見』の小売・取次となった。吉原出身という境遇は、かなり役に立ったことだろう。

newsweekjp20250114075647-5a835dbaedefc19d3e08a8099f6bfdcaee274054.jpg

五十間道は吉原大門口の手前にある

newsweekjp20250114075730-dedbe901cad2a283093f788d71f0c9810c453200.jpg

『廓費字尽(さとのばかむらむだじづくし)』恋川春町作・画 1783(天明3)年 国立国会図書館蔵:往来物をパロディ化した黄表紙で、部首を揃えた漢字を並べ、その読み方を歌にして教える。漢字のほとんどは創作であり、吉原の遊びや周辺事情にこじつけられる。画像は、版元・蔦重の新吉原大門口の店頭を描いたもの。

1774(安永3)年7月には版元として初めての出版物となる『一目千本(ひとめせんぼん)』を刊行する。挿し花を遊女に見立てるという斬新な趣向の遊女評判記で、浮世絵界ではすでに重鎮の地位にあった北尾重政を起用している点を見ると、鱗形屋の後援があったのだろう。

翌年3月には、『急戯花之名寄(にわかはなのなよせ)』が刊行された。これは『一目千本』と同じく遊女評判記の性格を持つ本だが、3月に行われたこの年の吉原俄(よしわらにわか)(毎年行われる吉原内の余興・即興芝居)での配布物として作られたと思われる。遊女の紋が入った提灯の絵に、遊女の選評が併録されている。

『一目千本』も『急戯花之名寄』も、評判記ではあるが、吉原の遊女全体を網羅しているわけではない。おそらく掲載された遊女や妓楼からの出資によって、贔屓客への土産のために作られたのだろう。吉原の人々からの信頼が厚い蔦重ならでは、といえる。

1775(安永4)年には、吉原細見の圧倒的なシェアを誇っていた鱗形屋が重板事件(無許可で他の版元の本を複製・販売した)に巻き込まれ、吉原細見の刊行ができない状態に陥っていた。その状況に目をつけたのが、蔦重であった。小売取次の蔦重が自ら、吉原細見の版元となったのである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中