ミュージカルは「なぜいきなり歌うのか?」...問いの答えは、意外にもシンプルだった
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<ときに悪意を含んで尋ねられるこの問いの答えは、およそ100年前に生まれ、2500年にわたる西洋演劇の歴史を覆した「あるシステム」にある>
ミュージカル好きもミュージカル嫌いも、必ずといっていいほど行き当たる「ミュージカルはなぜいきなり歌うのか。」という問い。
オペラや音楽劇の研究を行っている長屋晃一氏は、この問いに答えることは「じつのところむずかしくはない」という。
長屋氏がミュージカルというジャンルを成り立たせる「型」に着目し、その仕組みを解き明かす『ミュージカルの解剖学』(春秋社)より一部を抜粋して紹介する(本記事は第1回)。
「ミュージカルはなぜいきなり歌うのか。」
ミュージカルにかんする本のほとんどが、この問いからはじまる。
それは、ミュージカルといえば歌とダンスだ、という印象がなによりも強いことをあらわしている。同時に、ミュージカルを受けいれられない人が、かならずといってよいほど口にする問いでもある。
この問いを純粋な好奇心で相手にたずねる人はどのくらいいるのだろうか。むしろ、この問いには、ちょっとした悪意が含まれているのではないか。それは、ミュージカルという言葉を口にするだけで目を輝かせている連中を困らせてやろうという意図だ。
ミュージカルの熱烈なファンは、この問いにむっとした顔をするか、こんなすばらしいものを理解できないとは、なんてかわいそうなのだ、といわんばかりに、あわれみの表情を浮かべてこう答える。
「だってミュージカルなんだから。」
悪意をこめてこの問いをぶつける人は、ミュージカルにどうしてもなじめないタイプだ。そうしてミュージカルに距離をおきたくなる心情、それはミュージカルのあの「きらめき」に目をあけていられない(いたくない)人の心理である。たとえば、次のような――
引用した松岡正剛の言葉は、ミュージカルが苦手だと告白する人の心情を簡潔に代弁している。おそらくこのミュージカルは《メリー・ポピンズ》だろう。舞台か、それともミュージカル映画のほうかはわからない。
いずれにせよ、松岡にはそれが子供ながらに幼稚に思え、いい大人たちが物語そっちのけで急に歌ったり踊ったりすることに、いたたまれないむずがゆさを覚えたのだろう。それはわからないでもない。
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