「私の何が、人を引き付けるのか?」 アル・パチーノが自伝『サニー・ボーイ』でさらけ出した本心
One of Cinema’s Greatest
自伝には、彼が天性の役者であることを示すエピソードが盛り込まれている。神がかった演技を見せる一方で、時には悪魔に憑かれたようにリスクを冒してしくじった。「私の演技には一貫性も型もない」と、彼は書く。パチーノにとって、全力でぶつからない仕事に価値はない。
舞台でシェークスピアの『リチャード3世』を演じたときは、とことん役にのめり込んだ。楽屋を訪れたジャクリーン・ケネディ・オナシスを椅子にふんぞり返ったまま迎え、片手を差し伸べてキスを求めたほどだった。
「私の何が人を引き付けるのか」という戸惑いが
こうしたエピソードは自分に酔っているようで鼻につくかもしないが、パチーノは挫折も率直に語る。
2010年代には会計士のずさんな資産管理と自身の浪費癖がたたって破産。『ジャックとジル』などの駄作に続けて出演したのは「金のためだった」と振り返る。「三流映画だとうすうす分かっていたが、自分が出演すれば二流まで引っ張り上げられると思うことにした」
そんなパチーノは自伝の中で、終始「私の何が人を引き付けるのか」と戸惑っているように見受けられる。
毎朝起きてロサンゼルスの街をぶらつくパチーノと、あまたの男子学生が部屋に『スカーフェイス』のポスターを張り、ニューヨークの野外演劇祭で主演した『ベニスの商人』が語り草となっている伝説のパチーノ。2人の間に隔たりがあることを、本人は強く自覚している。