世界中で「キモノ」が巻き起こしたセンセーション...ドレスから「あのSF映画」にまで、変幻自在の大進化
Exploring the Kimono
ビョークのアルバムジャケット(着物デザインはマックイーン) ©NICK KNIGHT, COURTESY V&A DUNDEE
<京都の伝統「着物」から世界の「キモノ」へ──海を越えファッションの枠をも超えた着物の歴史を振り返る>
日本文化を特徴付けるエレガントな民族衣装である着物は、職人技と伝統の象徴だ。文字どおり「着る物」で、右身頃の上に左身頃を重ねて帯で固定する。17世紀以降、男女共に一般的な衣服となった。
今では着物は日本ではあまり着られなくなったが、世界各地で新たな息吹を吹き込まれ、オートクチュールのイメージを一新し、ファッションに革命を起こしている。英ビクトリア&アルバート博物館スコットランド分館「V&Aダンディー」で来年1月5日まで開催中の『着物:京都からキャットウオークへ』展は、着物が過去約3世紀にわたって工芸家やファッションデザイナーや映画製作者にいかにインスピレーションを与えてきたかを紹介している。
V&Aでアジア美術を担当するアンナ・ジャクソンがキュレーターを務める今回の着物展は展示品約300点に及ぶ大規模なもので、双方向型のディスプレイと文章による説明が、着物の進化とファッション界に与えた多大な影響を照らし出す。
デザインの革新と匠の技の中心地である京都では、織物の急激な発展が江戸時代(1603~1868年)にピークに達した。将軍や諸大名など武士の身分は礼服である裃(かみしも)によって示された。一見色も模様も平凡だが、よく見ると細かく複雑な模様が施されている。
女性の地位も特別な際にまとう着物の違いに表れていた。着物展の最初のセクションには初期の振り袖などが展示されている。どれも魅惑的なデザインで、絞り、型染、友禅、紬(つむぎ)といった複雑な技術を見ることができる。
ここでは浮世絵も交えて、身分によってどのように使い分けられていたかが分かるようになっている。日本の伝統芸能である歌舞伎の舞台は、女性の役を女形と呼ばれる男性の役者がきらびやかな衣装をまとって演じ、デザインを披露する場としてうってつけだった。
とりわけ興味深いのは雛形(ひながた)本だ。模様の雛形(見本)を一冊にまとめたもので、ちょうど現在のファッション誌のように生産者や消費者に流通した。
着物の日本国外への紹介と商品化に非常に重要な役割を果たしたのがオランダ商人だ。彼らは外国人で唯一、将軍から日本での商取引を許され、着物と生地を初めてヨーロッパに紹介した。
しかし明治時代(1868~1912年)に日本が開国すると、アイデアの交流が活発化し、着物はさらにヨーロッパやアメリカに出回るようになった。
プロパガンダや映画にも
初めて海を渡った着物はたちまちセンセーションを巻き起こした。フランスの画家マティスの妻アメリなど著名な人物の肖像画に描かれるようになり、ドレスの大規模な「脱構築」が起きた。
例えば、ロンドンのクチュリエ「ルシール」の服はデザイナーのレディ・ダフ=ゴードンによる優美なドレープが特徴だが、これも着物から着想を得た裁断法のたまものだ。
着物の優美さは生地や素材から生まれるといっていい。綿や麻、カラムシ(イラクサ科の植物)......。特に、軽さ、光沢、豊かなドレープ性などを備えた絹は、極上のデザインにうってつけだった。
1930年代、日本は戦争のプロパガンダの商品化を推進したが、子供の玩具や文房具、さらに着物までが戦意高揚に利用された。
戦時中の人気漫画『のらくろ』の主人公のらくろは帝国陸軍の非公式マスコットになり、着物姿で描かれた。今回の着物展でも何点か展示され、戦争のイメージが青少年の着物の柄に結び付けられている。着物による戦意高揚が日常茶飯事と化していたことに気付かされる。
着物の影響は現代映画にも表れている。『スター・ウォーズ』の衣装の大半は着物をヒントにしている。ジョージ・ルーカス監督は若い頃、日本の名匠・黒澤明の作品に影響を受け、それがアレック・ギネス演じるオビ=ワン・ケノービの衣装にまで及んだ。
2015年にJ・J・エイブラムス監督による新シリーズが始まった際も、衣装デザイナーのデイブ・クロスマンは着物風の衣装にこだわった。
オランダ商人が初めて紹介したときから、エキゾチックな着物がヨーロッパのファッションに浸透することは必然だった。
着ていて自由に動ける点や模様の見事さを歓迎した19世紀ヨーロッパの淑女たちから、着物を取り入れたデヴィッド・ボウイやビョークなど20世紀の様式美あふれるアーティストまで、キュレーターのジャクソンは着物を変幻自在な衣装として体験させる。
アレキサンダー・マックイーンや斉藤上太郎ら着物に独自の見解を持つ現代のデザイナーたちの作品は、この着物展のクライマックスだ。
最終セクションは現代のデザインの融合。素材とトレンドの融合が、イギリスのデザイナーでナイジェリア生まれのデュロ・オロウの大胆なモチーフなど、今後の探究に無数の可能性を開く。
この幾重にも織り上げられた着物展で創作と結び付きを体感し、現代のファッションを通して日本を象徴する衣装の進化を目撃してはいかが?
Rosanna Rios Perez, Robert and Lisa Sainsbury Fellow (SISJAC), University of East Anglia
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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