最新記事
映画

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』内戦で崩壊したアメリカを体感せよ

Dropped Into Violent Chaos

2024年10月15日(火)15時46分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』内戦で崩壊したアメリカを体感せよ

リーは反乱軍に包囲された大統領の取材を試みる A24ーSLATE

<ジャーナリストの目を通して観客を説明なしに暴力のカオスにたたき込む『シビル・ウォー』が日本公開中だ。その衝撃と魅力とは?>

近未来なのか現在なのか時代は分からない。大統領(ニック・オファーマン)の名前や政党も明かされない(ただし彼の演説は不気味に強権的だ)。アメリカを引き裂き、都市部を戦闘地帯に変えた内戦の性質も説明されない。

アレックス・ガーランド監督(『エクス・マキナ』)の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』において、アメリカが暴力的なカオスに陥った理由と経緯は二の次なのだ。


ガーランドはそのカオスのただ中に観客を放り込み、ドラッグストアや衣料量販店が立ち並ぶ見慣れた町が戦場と化す様を見せつける。そこでは建物の屋上に狙撃兵が立ち、武装集団が独自の残忍な法を執行している。

脚本は時に腹立たしいほど曖昧だが、イデオロギーの亀裂が現実と異なることは特に強調される。政府を脅かしている分離独立主義組織「西部勢力」は、テキサス州とカリフォルニア州の連合。現在の共和党と民主党の勢力図からは、とても想像できない同盟関係だ。

フロリダ州では別の反政府運動が起きているらしい。町では暴力が猛威を振るい、秩序は崩壊している。序盤の会話によれば内戦が始まったのは14カ月前だが、そんな短期間で国がここまでディストピア化するとは思えない。とはいえこの映画の肝は、現実味より、腹に響くインパクトだ。

ガーランドはダニー・ボイル監督のゾンビホラー『28日後...』の脚本から出発し、アクションビデオゲームの脚本で受賞経験もある。注目の映画制作会社A24が過去最高の製作費を投じた『シビル・ウォー』は、ホラーとゲームを融合した趣。観客がプレーヤーとなり、ゾンビではなく武装した市民に襲われるのだ。

戦場写真家のリー・スミス(キルスティン・ダンスト)は、報道陣の拠点となったニューヨークのホテルに籠もっている。西部勢力が首都を制圧しつつあると知り、相棒の記者ジョエル(ワグネル・モウラ)と車でワシントンに向かう計画を立てる。反乱軍に包囲された大統領のインタビューを取るのが目的だ。

恩師のサミー(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)は狂気の沙汰だと2人を止める。だが考えを変え、高齢で足も悪いが自分も同行させてくれと頼む。

さらにリーの反対を押し切り、20代でフォトジャーナリスト志望のジェシー(ケイリー・スピーニー)が一行に加わる。リーに憧れるジェシーだが、戦場体験はない。

無鉄砲なジェシーのせいで旅の危険は高まる。一方若い彼女の存在に影響され、リーは戦場でのつらい記憶を長年封じた末に自分が疲弊し、ドライな人間になっていることを思い知る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中