最新記事
中国

フードデリバリー配達員の悲哀...映画『逆行生活』のヒットが示す、中国社会の「苦悩と不安」

2024年8月17日(土)17時02分
中国でヒットする映画「逆行生活(Upstream)」

「逆行生活(Upstream)」 は、リストラの対象となった中年プログラマーを主人公とする物語だ。写真は上海で14日、映画館の前で撮影した同作のトレーラー(2024年 ロイター/Nicoco Chan)

[上海/北京 14日 ロイター] - この夏、中国映画界における最大のヒット作の1つでは、中国が抱える経済的な難問がいくつか取り上げられている。不安定な雇用市場、社会的な転落、単発で仕事を請け負う「ギグワーク」で働く数百万もの人々のぎりぎりの生活──。

「逆行生活(Upstream)」 は、リストラの対象となった中年プログラマーを主人公とする物語だ。年齢ゆえにホワイトカラーの仕事は見つからず、家族を養うために、危険を伴うギグワーク、フードデリバリーの仕事に身を投じる。


コミカルな役柄で知られる徐崢(シュー・ジェン)が監督・主演を務める「逆行生活」では、美団に代表される中国で人気の料理宅配サイト経由で、いわゆる「ラストワンマイル」を駆けずり回る薄給の宅配ドライバーが描かれている。

映画チケット販売サイト「猫眼電影(Maoyan)」によれば、13日の時点でこの作品の観客動員数は約500万人に達した。

9日に公開されたばかりの「逆行生活」がトップクラスの興行収入を稼ぐ背景には、デフレ経済における不安感、そして料理宅配ドライバーにのしかかる現実的なプレッシャーが、いずれも今まさに関心の的になっている状況がある。

ここ数年、中国映画でヒットする定番ジャンルといえば、戦争映画や歴史ドラマ、恋愛ドラマあたりが普通で、経済問題にフォーカスした作品のヒットは異例だ。

美団と、その最大のライバルであるアリババ傘下の餓了麼(Ele.me)で働く宅配ドライバーは少なくとも1000万人。勤務時間の長さや、1件当たり1ドル(約149円)相当にも満たないことが多い配達報酬に対する不満も聞こえる。

「逆行生活」では、ドライバー間、サイト間の競争は容赦なく、休憩時間もなしに1日14時間以上にも及びかねない勤務時間の中で危険な近道を選ぶ様子も描かれている。

香港を拠点とするマーケティングコンサルタント会社の創業者、アシュリー・ドゥダレノク氏は、「今の多くの中国人の思いをかなりリアルに描いている」と評する。昨今のネガティブさは10年前のムードとは対照的だという。

中国におけるビジネスや消費トレンドに関する複数の著書があるドゥダレノク氏は、「当時は、明日は今日よりよくなる、景気はよくなる、チャンスも広がっていくという基本的な強い信念があった」と語る。「今日では、そうした信念は見られない」

「逆行生活」に登場するドライバーたちを雇っている企業は明確に特定されていないが、彼らが身につけるヘルメットとユニフォームの明るい黄色は、美団のブランドカラーを思い起こさせる。

ロイターが美団に問い合わせたところ、広報担当者は「当社はその映画に関与していない」とし、作品における業界の描写についてもコメントを控えた。

「逆行生活」に参加した17のプロダクションには、アリババの映画子会社が含まれている。アリババ系列の餓了麼に似たライトブルーのユニフォームを着た運転手も作品に登場するが、作品の本筋とは関係なく、登場人物たちが働いている会社として明確に描かれているわけでもない。アリババによるコメントは今のところ得られていない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中