フードデリバリー配達員の悲哀...映画『逆行生活』のヒットが示す、中国社会の「苦悩と不安」
<事故と衝突>
徐が演じる主人公の高志壘(ガオ・ジーレイ)と他2人のドライバーは、配達遅延のペナルティーを回避し、スマホのアプリを通じて流れてくる合成音声の指示に追いつこうと焦るあまり、自動車と接触してしまう。
また、高は自分の社会的な転落をなかなか受け入れられない。ショッピングモールに正面入り口から入ろうとして警備員に制止された高は、自分はつい先日までここで買い物していたのだと抗議する。「それは過去のことだ」と警備員は言い、通用口を使えと指示する。
配達を急ぐドライバーと警備員との衝突は、中国の街中ではありふれた光景だ。杭州の警察は12日、あるドライバーがオフィスビルに配達しようとしてフェンスを飛び越え、駆けつけた警備員に取り押さえられた事件について調査を進めていると発表した。このドライバーに対する扱いは、ネット上で激しい反応を引き起こした。
所属するプロダクションを通じて徐崢にコメントを求めたが、現時点で回答はない。徐はプレミア試写会で、観客に「宅配ドライバーの普通の1日がどのようなものかを見てもらう」ことによって、「希望と温もりを伝えようとした」と述べている。
ネット上では「逆行生活」について、近年の中国映画では検閲の恐れもあるためになかなか取り上げられない社会問題に取り組んだとして賞賛する映画評も見られる。映画情報サイト「IMDb」に似た中国のオンライン映画データベース「豆弁電影」で、ある観客は「この問題を取り上げるとは実に大胆だ」と評している。
別の観客は「頑張って働くだけでは必ずしも生活は良くならないことをこの作品は描いている」と書いている。「結婚せず、子どもも作らず、家も買わないことが、良い生活を実現する唯一の道かもしれない」
「逆行生活」のハッピーエンドに納得しない観客もいる。高はヒーロー並みの活躍でたくさんの配達をこなし、延滞していた住宅ローンの返済にこぎ着ける。SNSサイト「小紅書」に投稿されたレビューでは、「作品の娯楽性を強めるために、真実味がいくぶん犠牲になっている」とされている。
ロイターが上海で取材した配送ドライバーたちは、映画館で料金を払って「逆行生活」を観る予定はないが、オンラインで無料になったらストリーミング鑑賞するかもしれない、と語る。
林という姓だけ教えてくれた37歳の配送ドライバーは「普通の人が働く業界ではない」と語る。「時間との競争だ。注文が遅れる直前の1、2分は、命がけの競争になることもある」
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