最新記事
K-POP

BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も

2024年7月25日(木)16時22分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


NewJeansの事務所代表ミン・ヒジンも、「押し出し」など過度なCD販売競争への批判を語っている。 뉴스1 연예TV / YouTube

アルバム輸出、9年ぶりに減少の衝撃

だが、問題を抱えるのはYGだけではない。韓国の4大音楽事務所──YGエンターテインメント、SMエンターテインメント、HYBE、JYPエンターテインメントはすべて今年に入って大きく株価を下落させ、上半期の時価総額は昨年同期比30%も減少した。


 

これを象徴するかのような"事件"が7月15日、明るみに出た。韓国関税庁が発表した輸出入貿易統計によると、今年上半期のCDアルバム輸出額は1億3032万ドルで、前年同期比-2%と9年ぶりの減少となった。内訳では日本への輸出額が4693万ドルで最も多く、米国が3045万ドルで後に続いた。K-POP業界の不振の主な要因とされてきた中国向け輸出は1840万ドルで、全体の14%を占めるに止まった。対中輸出額は前年比18.7%も減少したことになる。

またアルバムの販売量も減少した。韓国音楽コンテンツ協会が集計するサークルチャートによると、上半期のトップ400アルバムの販売量は4760万枚で、昨年比800万枚、15%減少した。4大音楽事務所に限ってみても昨年上半期のアルバム出荷量は5345万枚だったが、今年上半期は4474万枚と17%近く減っている。一体何が起きているのだろうか?

主要アーティストのアルバム販売がダウン

今年上半期、K-POPアーティストのリリースしたアルバムは残念ながら前作に及ばない販売量を記録したケースが多かった。

アルバムの初週の販売量(ハントチャート基準)を前作と比べてみると、SEVENTEENは509万枚から297万枚に、ZEROBASEONEは213万枚から135万枚に、BTSのRMは62万枚から56万枚に、IVEは161万枚から132万枚に、Red Velvetは41万枚から27万枚へとそれぞれ減少した。aespaは113万枚から115万枚に小幅増加したが、昨年170万枚を記録した3番目のミニアルバムを超えることはできなかった。もちろん、SEVENTEENのアルバムは新曲が少ないベストアルバムである点と、RMは兵役のためプロモーションが事実上なかったという点もあったことは考慮されるべきだが、全体として売上が落ちていることは否めない。

アルバム販売は2023年がピーク?

さらに販売減の要因として指摘されるのは、これまでの過度なアルバム販売戦略がファンたちの疲労感を呼び起こしたのではないかという点だ。

特にNewJeansの所属事務所ADORのミン・ヒジン代表が、親会社HYBEを批判する記者会見で指摘した「フォトカード」や「押し出し」はK-POPに限らず、世界のレコード業界の抱える問題として注目を集めている。

このうち「押し出し」とは、アルバムの初回販売数を上積みさせるため、レコード会社が卸売業者にCDを一定数を買い取らせる商法を指す。卸売業者はCDを売り切るために一定枚数を購入したファンを対象としたアーティストのサイン会を実施するが、熱心なファンは何度もアーティストとの触れあいの機会をもちたいからと沢山のアルバムを購入するため、1回のサイン会が数時間もかかることがある。それでなくても新曲のプロモーションで多忙なアーティストがさらに疲弊する要因になっていると問題を指摘する声は多い。

またK-POPに限らず、近年のレコード業界はアルバム販売数を引き上げるためにアルバムジャケットのビジュアルを複数バージョン作ったり、アーティストの「フォトカード」を複数作ってランダムに封入することで同一アルバムをファンに何枚も売りつける販促戦略を使ってきた。

米ビルボードは最近「アーティストたちがこれまでになく多くのバージョンの異なるアルバムを出している」という記事を通じて14種類のバージョンでアルバムを出したテイラー・スウィフトの事例と共にK-POPについても取り上げた。ビルボードは「CDのバリエーションは多くのK-POPアーティストが『ビルボード200』で好成績を出すことを助けた」として「韓国では多くのファンがCDプレーヤーをもっていないにも関わらず、レコード会社は『宝くじスタイル』のマーケティング戦略とグッズを伴ったパッケージCDを導入する」と指摘した。

だが、こうした過熱気味のマーケティング手法は長続きはしないようだ。事実、一部K-POPアイドルグループのファンからは「ファンミーティングに行くために20枚以上アルバムを買うことも多いけど、最近は大変です」という声が聞こえている。

サークルチャートのキム·ジヌ首席研究員は、「昨年アイドル初年度販売量競争がどの年より激しかった」と語る。「ライバル歌手の販売量に追いついたり、前作の販売量を超えなければならないという事務所とファンの強迫観念が『押し出し』あるいは『無限ファンミーティング』のような市場の過熱を招いた。そのバブルが今年一部はじけて現れた結果だ」と分析した。

ある大手音楽事務所の関係者も「音楽的に(クオリティが)落ちたとかいう意味ではないが、アルバムのインフレがもうピークを過ぎたという話はたくさん耳にした」として「ファンも音楽関連コンテンツを消費するとき、アルバムだけに『オールイン』しない。オンラインコンテンツ、グッズ、ライブなど、さまざまなスタイルの消費をするということだ」と話した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 7
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中