「次世代のトム・クルーズ」と話題のイケメン俳優、大スターの教訓は「難しそうに演じろ」?
The Secret to Being a Star
『恋するプリテンダー』も、パウエルの魅力を引き出そうとはした。彼が演じる主人公ベンが恥をかく場面を設定し、この役柄に人間味を持たせようとしたのだが、不発に終わった。
それはベンがショーツに入った毒グモを追い払おうと慌てて裸になる場面だ。観客は彼の狼狽ぶりを笑うどころか、鍛え上げた肉体に目を奪われることになった。
観客との親密な絆が鍵
パウエルがリチャード・リンクレーター監督と共同で脚本を手がけた『ヒットマン』はそれとは違う試みで勝負する。パウエルを普通の男に見せようとしているのだ。
ニューオーリンズ大学の心理学教授ゲーリー・ジョンソンを演じる彼は、見た目はパウエルだが自分が「イケてる」ことを意識していないパウエルだ。
縁なしメガネをかけ、フロイト風にイド、エゴと名付けた2匹の猫を飼い、別れた妻には「情熱は足りないけど良い人」と思われ、学生にはニーチェを引用して「人生を危険にさらせ」と言いつつ、自分は無難で退屈な日々を送る男......。
一方で彼は副業として警察の覆面捜査の録音作業を手伝っている。殺し屋を雇おうとする依頼人の音声を録音し逮捕につなげるためだ。ところがひょんな成り行きで彼自身が殺し屋に扮する捜査官を務めることになる。
意外にもこの仕事は彼に合っていた。長年人間の行動を研究し、他人を観察するスキルを磨いてきたおかげで、依頼人の心理を読み取り、依頼人が望むタイプの殺し屋になれるからだ。
依頼人の好みに合わせてさまざまなタイプの殺し屋に七変化するゲーリー。その豹変ぶりは笑えるが、見方によっては下手なギャグのよう。ドン引きする観客がいてもおかしくない。それでもパウエルが間抜けに見える演技をいとわないことは分かる。
最終的にゲーリーはロンという名の殺し屋に扮する。彼は、元夫の虐待男から逃れたいマディソン(アドリア・アルホナ)にとって頼りになる優しい男、理想的な殺し屋だ。
マディソンとロンは恋に落ちる。立場上おおっぴらにできない関係だから、人目を忍んで会うことになり、結果的に会えば毎度のように激しく互いを求め合うことに......。
観客はやがて気付く。ゲーリーはマディソンの性的魅力に溺れるロンを「演じている」のではない。この情熱的な男が本来のゲーリーだ。ただ、情熱的なイドが噴出して、理性的なエゴを打ち負かすのを待っていただけなのだ、と。