最新記事
映画

「次世代のトム・クルーズ」と話題のイケメン俳優、大スターの教訓は「難しそうに演じろ」?

The Secret to Being a Star

2024年6月26日(水)13時53分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

グレン・パウエル

HUBERT VESTIL/GETTY IMAGES

『恋するプリテンダー』も、パウエルの魅力を引き出そうとはした。彼が演じる主人公ベンが恥をかく場面を設定し、この役柄に人間味を持たせようとしたのだが、不発に終わった。

それはベンがショーツに入った毒グモを追い払おうと慌てて裸になる場面だ。観客は彼の狼狽ぶりを笑うどころか、鍛え上げた肉体に目を奪われることになった。


観客との親密な絆が鍵

パウエルがリチャード・リンクレーター監督と共同で脚本を手がけた『ヒットマン』はそれとは違う試みで勝負する。パウエルを普通の男に見せようとしているのだ。

ニューオーリンズ大学の心理学教授ゲーリー・ジョンソンを演じる彼は、見た目はパウエルだが自分が「イケてる」ことを意識していないパウエルだ。

縁なしメガネをかけ、フロイト風にイド、エゴと名付けた2匹の猫を飼い、別れた妻には「情熱は足りないけど良い人」と思われ、学生にはニーチェを引用して「人生を危険にさらせ」と言いつつ、自分は無難で退屈な日々を送る男......。

一方で彼は副業として警察の覆面捜査の録音作業を手伝っている。殺し屋を雇おうとする依頼人の音声を録音し逮捕につなげるためだ。ところがひょんな成り行きで彼自身が殺し屋に扮する捜査官を務めることになる。

意外にもこの仕事は彼に合っていた。長年人間の行動を研究し、他人を観察するスキルを磨いてきたおかげで、依頼人の心理を読み取り、依頼人が望むタイプの殺し屋になれるからだ。

依頼人の好みに合わせてさまざまなタイプの殺し屋に七変化するゲーリー。その豹変ぶりは笑えるが、見方によっては下手なギャグのよう。ドン引きする観客がいてもおかしくない。それでもパウエルが間抜けに見える演技をいとわないことは分かる。

最終的にゲーリーはロンという名の殺し屋に扮する。彼は、元夫の虐待男から逃れたいマディソン(アドリア・アルホナ)にとって頼りになる優しい男、理想的な殺し屋だ。

マディソンとロンは恋に落ちる。立場上おおっぴらにできない関係だから、人目を忍んで会うことになり、結果的に会えば毎度のように激しく互いを求め合うことに......。

観客はやがて気付く。ゲーリーはマディソンの性的魅力に溺れるロンを「演じている」のではない。この情熱的な男が本来のゲーリーだ。ただ、情熱的なイドが噴出して、理性的なエゴを打ち負かすのを待っていただけなのだ、と。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中