巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』...今どき「ありがとう、アメリカの皆さん!」はない
Masters of the Air, in Red, White, and Blue
一方で、出撃時のアクションシーンは迫力があり、絶え間ない動きと機内の騒音に気分が悪くなりそうなくらいだ。炎と流血の描写には本当に恐怖感を感じる。
本作では、バックことゲイル・クレベン(オースティン・バトラー)とバッキーことジョン・イーガン(カラム・ターナー)を中心に物語が展開する。
バックは真面目で、故郷に残してきた恋人にいちずだ。バッキーは威勢のいいトラブルメーカーで、ラブシーンに登場するのはこちらのほうだ。
アメリカ=正義の図式
本作も『バンド・オブ・ブラザース』や『ザ・パシフィック』と同様に実話を基にしている。だから登場人物に愛着が湧いて彼らのその後の運命が心配になったら、ウィキペディアやアメリカ航空博物館のウェブサイトで調べれば答えは見つかる。つらい場面への心構えもできるだろう。
スピルバーグとハンクスの第2次大戦ドラマが見やすい作品に仕上がっているのは、このように視聴者にストレスを与える作りでありながら先の展開が見えるからこそだ。
戦争映画が戦争賛歌になるのは避け難い、というのはフランソワ・トリュフォー監督の弁だが、ナチス戦を描くエンターテインメント作品であればなおさらだ。
本作では、それが兵士の死であれ地上にいる民間人の死であれ、無駄に失われた命はないと確信を持って描かれる。
作中に出てくる歴史上の人物が考えている以上に、と言ってもいいかもしれない(第100爆撃群の初代司令官は1942年に「君たちは汚れ仕事をしなければならない。君たちは女性や赤ん坊を殺すことになるだろう」と述べた)。
確かに脇役の1人がドイツの町の中心部を爆撃することに疑問を抱く描写はある。だが主人公の1人であるバッキーは、自分たちが全滅する前にドイツ側の急所を突かなければならないと考える。
シリーズ後半では、ロージーことロバート・ローゼンタール(ネイト・マン)というユダヤ系アメリカ人のパイロットが活躍するほか、3人の黒人パイロットが登場する。