最新記事
哲学

「哲学」と「料理」はなぜ似ているのか?...躁うつ病、就職での挫折と絶望から救ってくれたのは「哲学すること」だった

2023年11月2日(木)10時48分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

自身の「素朴な問い」を問い、考えるために、彼、彼女らは、同じような問いを問うた過去の先人たちと、その遺された書物を通して対話を試みました。

彼、彼女らは先人たちの書物を一生懸命に読み込み、研究した結果、そのまま受け入れることに満足できず、独自の考えを展開していくことになったのです。それが、オリジナルな哲学説の誕生の瞬間です。

哲学の問いを「自分で考える術」も、料理の仕方も、一足飛びに身につくことではありません。そこで、いちばん大切なのは、まずは「素朴な問い」を抱くことです。まずは何か料理をしてみたいと思うこと、それです。

 
 
 
 

「考えること」は誰でもしてよい

この「はじめに」において、最後にお伝えしたいのは、「考えること」は誰でもしてよいということです。

確かに、大学の哲学研究はとても重要です。その研究の成果は、入門書や解説書として私たちもその恩恵を受けています。しかし、学問としての哲学研究のみが哲学である、と哲学を狭く限定してしまうのは、哲学への入口を狭き門にしてしまうと思うのです。

そもそも「考えること」は誰でもできることです。この「考えること」を私たちは自ら放棄して、誰かにお任せにしてはいけないのですね。学問としての哲学研究だけではなく、「哲学」自体、つまり「考えること」自体は万人に開かれています。

生きるとは、死ぬとは、私とは、正しいとは、善とは、美とは、そして、人間とは。そのように「考えること」は誰でもしてよいし、することが可能なのです。

大学で哲学を学んだ人や研究者だけしか、哲学をしたり、哲学について語ったりしてはいけないということはもちろんありません。なぜなら、たとえばプロ野球選手でなくとも、野球をしたり、野球について語ったりしているのですから。

本来は、哲学も野球と同じで、誰もがプレーすることのできるものなのです。私たちが野球談義をするように、日常的に哲学談義をすることは可能だとも私は考えています。

哲学って「考えること」自体です。その意味で、哲学って本当は、私たちが肌で触れられるような、もっと日常的、庶民的なものなのですから。


関野哲也(せきの・てつや)・哲学博士(Docteur en Philosophie)/文筆家/翻訳家 
1977年、静岡県生まれ。フランス・メッス大学哲学科学士・修士過程修了後、リヨン第三大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は宗教哲学、言語哲学。特にウィトゲンシュタイン、シモーヌ・ヴェイユ研究。留学後、フランス語の翻訳者・通訳者として働くが、双極性障害を発症。その後、ドライバー、障がい者グループホーム職員、工場勤務などを経験。現在は「生きることがそのまま哲学すること」という考えを追求しながら、興味が趣くままに読み、訳し、研究し、書いている。著書に『池田晶子 語りえぬものを語る、その先へ』(Amazon Kindle)がある。


 『よくよく考え抜いたら、世界はきらめいていた
  関野哲也[著]
  CCCメディアハウス[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中