警察すら動かない「日本の沈黙」が助長させた...「堕ちた帝国」の進むべき道とは?
The Rise and Fall of a Dynasty
会見に臨む新社長の東山と前社長の藤島 Kim Kyung-Hoon-Reuters
<業界、メディア、社会全体の長年にわたる沈黙がジャニー喜多川の犯罪を助長してきた。独立機関の設立や現体制の問題など、同じことが二度と繰り返されないための施策と覚悟について>
米音楽雑誌ビルボードの東京支局長を2020年まで12年余り務めていた私は、ジャニーズ事務所の亡霊が、ハゲワシか不吉な流星のように音楽業界に影を落とすのをつぶさに見てきた。
この国でなぜ一企業が音楽業界を、ひいてはエンターテインメント業界全体をこれほど強力に支配し得たのか。この問いを発するのが、外国人音楽ジャーナリストの務めだろう。そのためには業界全体の深部、そして1人の男の生の軌跡を見つめなければならない。
日本の音楽事情を知っている人なら誰でも、この国ではJポップがポップミュージックの主流で、その売り上げが圧倒的なシェアを占めることを知っている。
1950年代末に誕生し、80年代頃までに不動の地位を確立したこのジャンルの発展に、ジャニー喜多川こと喜多川擴(ひろむ)は大きく貢献した。
私が取材活動を始めた90年代には、ジャニーズ事務所による業界支配は明らかだった。喜多川はキングメーカーとして君臨。取材をすれば、業界関係者が異口同音に語ったものだ。ジャニーズ事務所はエンタメ業界、さらには日本社会に大きな影響力を及ぼしている、と。
喜多川が「あるタレント」をテレビに出したければ、すぐにどこかの局が応じるといった話も聞いた。喜多川の触手は業界の隅々まで伸びているようだった。
ある音楽レーベルのスタッフは、ジャニーズ事務所と仕事をするときは非常に気を使うと漏らした。事務所のやり方と少しでも行き違いが生じようものなら、すぐに喜多川の元に飛んでいき謝罪するよう促されるというのだ。
ジャニー喜多川の性加害疑惑は、私が取材を始めたときから公然の秘密だった。実際、喜多川が週刊文春を相手取って99年に起こした名誉毀損訴訟では、セクハラを伝えた文春の記事の重要部分は事実であると認められた。
だが警察は動こうとせず、「合宿所」に多数の未成年者を宿泊させていた喜多川とジャニーズ事務所が捜査の対象になることはなかった。日本のメディアもこの深刻な性加害疑惑に対し沈黙を貫いた。まるで喜多川とジャニーズ事務所は触れてはならない存在であるかのように......。
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