最新記事
映画

AIには作れない奇才監督の最新作『アステロイド・シティ』の「もう一度みたくなる」謎

A World Going Beyond AI

2023年9月7日(木)18時06分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
映画『アステロイド・シティ』

義父(ハンクス、右)と電話で話すオーギー(シュワルツマン) ©2022 POP. 87 PRODUCTIONS LLC

<『アステロイド・シティ』は、ウェス・アンダーソン監督が想像力だけを頼りにつくり上げた、あまりに豊かで奇妙な世界>

27年のキャリアで11本の映画を送り出してきたウェス・アンダーソンは、好き嫌いが大きく分かれる映画監督・脚本家だ。その映像世界に魅了される人と不快感を抱く人に、はっきり二分される。

ただし、私自身は数少ない中間派だ。両方の人たちの気持ちがよく分かる。一本の作品について両方の感情を持つことも珍しくない。それでもはっきり言えるのは、アンダーソンがほかに類のない映画監督であり、そのキャリアが注目に値するということだ。

最新作『アステロイド・シティ』は、これまでで最もアンダーソンらしい謎めいた作品であると同時に、最も哲学的で最も野心的なテーマに挑んだ作品と言えるかもしれない。大学で哲学を学んだ若者は54歳になった今、こんな問いを投げかける──芸術作品は何の役に立つのか。

映画は、ワイドスクリーン以前の映画を思わせる画面サイズの白黒画像で幕を開ける。ブライアン・クランストン演じる司会者が進行役を務めるテレビ番組の一場面だ。

20世紀半ばの伝説的劇作家コンラード・アープ(エドワード・ノートン)の未上演作品を紹介する番組だという。舞台を録画したらしい映像の中で、ジェイソン・シュワルツマン演じる若手俳優がアープのアパートを訪ねてオーディションを受ける。

その後、程なくして世界が一変する。画面が横に広がり、白黒の映像はやわらかいパステルカラーに色づく。この世界では、シュワルツマンがオーディションで獲得した役を演じている。

町が無期限封鎖されて

時は1955年。妻を亡くしたばかりの戦争写真家オーギー・スティーンベック(シュワルツマン)は、幼い3人の娘とティーンエージャーの息子ウッドローを自動車に乗せて、アメリカ南西部の砂漠の町アステロイド・シティを目指す。ジュニア宇宙科学賞の祭典に出席するためだ。ウッドローが受賞者の1人に選ばれていたのである。

イベントの参加者の中に、やはり受賞者である娘のダイナ(グレース・エドワーズ)を連れたシングルマザーで映画スターのミッジ・キャンベル(スカーレット・ヨハンソン)がいた。オーギーとミッジは初対面の挨拶を交わし、ダイナはウッドローを熱い視線で見つめる。こうして、オーギーとウッドローの父子は恋に落ちる。

もし、もっとこの2組の親子を中心に据えて描いていれば、アンダーソンが手がけた作品の中で最も感情面で現実味のあるものに仕上がっていただろう。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中