ピアニスト務川慧悟が語る、盟友・反田恭平の素顔と資質
Tale of Two Pianists
――反田さんはモスクワからワルシャワ、ウィーンへ拠点を移しました。
音楽を学ぶ足場が変わった瞬間、演奏スタイルが変わるのが彼の特徴です。長年彼の演奏を聴いていると、学んだことを柔軟に吸収するスピードが速いことに驚きます。
ショパンコンクール(21年)が終わってから、彼は本格的に指揮の勉強を始めたそうです。オーケストラの全てを総合的に見る力が必要とされる指揮者の仕事は、練習だけではどうにもならないところがあります。
既にピアニストとしてあれだけ弾けるのは、指揮者になる上でものすごいアドバンテージです。同時に、指揮を学ぶことはピアニストにとって良い影響しかありません。指揮者とピアニストの両輪を追究する反田君の今後が楽しみです。
――指揮者にとって一番大切な資質は何だと思いますか。
最後にものをいうのは人間力です。自らが蓄積した哲学、倫理観、知性、全てが指揮棒の振り方ににじみ出ます。「何があろうがこの人は必ず信頼できる」と心から思わせてくれる反田君は、深い人間力を兼ね備えた稀有な音楽家です。
音楽への情熱を失わず、「もっと成長したい」という謙虚な姿勢を忘れない限り、60代、70代になろうが素晴らしい音楽を生み出せるのではないでしょうか。僕も反田君もそういう音楽家として、これから年を重ねていきたいと思います。