「ジャニーズ神話」が死んだ日...潮目が変わった「公然の秘密」性加害タブー

THE END OF THE MYTH

2023年6月23日(金)15時30分
デービッド・マクニール(ジャーナリスト、聖心女子大学教授)

韓国エンタメ業界との違い

なぜJポップは海外進出で後れを取ったのか。1つには、ジャニー喜多川の関心がもっぱら国内に向けられていたという事情がある。それに、彼は最後までインターネットの世界になじめなかった。

KポップはSNSを通じてアイドルとファンの関係性に革命を起こしたが、ジャニーズ事務所が所属アーティストの動画のネット配信を解禁したのは、ようやく5年前のことだ。

少子化で国内市場は縮む一方だから、ジャニーズ事務所も攻め続けなければ生き残れまい。ちなみにジャニーズ事務所を退所し独立した元SMAPの香取慎吾は、40代になってからネット空間に参戦したが、今やインスタグラムだけで100万人以上のフォロワーがいる。

言うまでもないが、Kポップの世界もセクハラ、パワハラに毒されている。しかし韓国では、アーティストたちが自ら事務所側と戦ってきた。

結果、今では事務所側が彼らに「無期限の年季奉公を強いる」ことは不可能になったと、ビルボード誌のシュワルツは言う。最近も人気グループEXOのメンバーが所属事務所との契約を解除し、正当な報酬の支払いを求めて提訴している。

こうした動きを、韓国ではファンもメディアも、そして政治家も支持している。韓国政府も、芸能界にはびこる虐待の風土には日本政府よりはるかに厳しく対処してきた。

ジャニーズ事務所は6月9日、設置済みの「外部専門家による再発防止特別チーム」は「第三者委員会としての機能を有している」とし、「過去の対応上の問題点を調査し、ガバナンス上の問題に関する再発防止策を提言する」と発表した。過去と決別するために社名を変える可能性も否定できない。

BBCのアザーは「声を上げたサバイバー(性暴力を生き抜いた人)たちに勇気づけられる。潮目は少しずつ変わってきた。議論が起きていることに励まされるが、やるべきことはまだまだ多い」と言う。

先のことは分からないが、これだけは言える。もはや、ジャニーズ神話は死んだのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独CPI、2月速報は+2.8% コア指数は伸び鈍化

ワールド

トランプ関税巡り希望持てず=訪米後に仏大統領

ワールド

英語を米国の公用語に、トランプ氏が大統領令を計画=

ビジネス

米PCE価格、1月+2.5%にやや減速 個人消費は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 7
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 8
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中