「ジャニーズ神話」が死んだ日...潮目が変わった「公然の秘密」性加害タブー
THE END OF THE MYTH
日本社会についてジャパン・タイムズ紙などに寄稿してきたフィル・ブレイザーに言わせると、「メディアの忖度システム」は今後も変わらない。
「喜多川の犯罪を問わずにきたことを謝罪するメディアもあるだろうが、業界全体のなれ合い体質は変わるまい。芸能事務所が手っ取り早く稼ぐには、今でも広告への出演契約が一番だ。ジャニーズは所属タレントの人気をいくらでも利用できる。このスキャンダルでダメージを受けるとは思わない」
実際、今日でもテレビ各局のプロデューサーは、喜多川のマンションで何が行われていたかを追及しようとしない。そのうちの1人は匿名で、喜多川がしたことは「間違っている」としながら、性的要求に応じるのが有名になる代償であることはみんな分かっていたと話した。
「(ジャニーズのタレントは)積極的な子ばかりだった。有名になりたがっていて、とても野心的で。この世界で必要とされる重要な資質は、他者より抜きんでることだ」。
しかもジャニー喜多川は既に故人であり、これ以上追及する意味はあまりないと、このプロデューサーは言った。プロデューサーは大人だから、そうした取引の本質的な意味について理解していただろう。
しかし元メンバーたちの痛々しい証言を聞けば、幼い彼らにそんな「理解」がなかったことは明白だ。喜多川の下で過ごした数年の間に、一生消えない心の傷を負った人もいる。
ノースウェスタン大学のローラ・ハイン教授(アジア史)は、「問題は、何が起きているかを知っている人々が見て見ぬふりをしていること」だと言う。
「ウィンウィンの取引だという人は、被害者のメンタルがどれほど破壊されたかを理解していない」
日本の業界の認識の甘さは目に余るが、もっと驚くべき点がある。喜多川の被害者であるはずの人の多くが、今も喜多川への愛着を示すことだ。
橋田でさえ、エンターテインメントが大好きだと思わせてくれたのは喜多川だと語り、謝意を表した。
BBCの記者モビーン・アザーは、喜多川を「グルーミングの達人」と評した。グルーミングとは、「子供や未成年者との信頼関係や感情的なつながり」を構築することで「相手を操り、搾取し、虐待する」行為を指す。
今は日本でも、こうした行為を「虐待」と見なす認識が広まってきた。国会では、「性交同意年齢」を13歳から16歳に引き上げ、「性行為を目的とした」グルーミングを禁じる刑法改正案が参議院で審議中だ。
国内のエンタメ市場に限れば、今もジャニーズ事務所の支配力は強大だ。しかし海外では、彼らのやり方は通用しにくい。とりわけKポップに対抗し得るアーティストの売り出しには苦戦しそうだ。