「ジャニーズ神話」が死んだ日...潮目が変わった「公然の秘密」性加害タブー
THE END OF THE MYTH
「ゾウにかみつくアリのよう」
これで決着がつき、法的にも世間的にも、もう喜多川は終わりだと思われた。しかし日本の主要メディアは、ほとんどこの問題をフォローしなかった。
テレビのプロデューサーたちは、そんな話には「興味がない」と語っていた。だから明日のスターを夢見る子供の親たちは、ジャニーズ事務所に履歴書を送り続けた。
当時ビルボード誌の東京支局長だったロブ・シュワルツのように、喜多川にインタビューを試みた人もいる。だが彼らは、少年愛に関する質問はするなと警告された。
「誰からも喜多川の話は聞き出せなかった。虐待の件だけでなく、彼については誰も、何もしゃべろうとしなかった」とシュワルツは言う。誰もが「知らぬ存ぜぬ」で通していた。
05年に告発本を書いた元Jr.の木山将吾は、事務所と喜多川を守るメディアの隠蔽体質に立ち向かう自身の姿を「まるでゾウにかみつくアリのよう」と形容している。
ゾウはその後も生き永らえた。喜多川は19年に、くも膜下出血で87年の生涯を閉じた。「お別れの会」には当時の安倍晋三首相をはじめ、各界のそうそうたるメンバーが弔辞を寄せて彼の業績を褒めちぎった。
だが今年3月にBBCのドキュメンタリー番組が放送されると、関連報道が再燃し、また新たに告発をする人たちが次々と現れた。現時点で声を上げたのは15人ほどだ。
その1人が元Jr.のカウアン・オカモト(27)。彼は4月に日本外国特派員協会(FCCJ)の記者会見でこう述べた。自分が事務所に所属していた4年間に東京都渋谷区の喜多川の自宅マンションに滞在した100~200人のほぼ全員が、当時70代後半か80代前半の喜多川から望まない性的行為をされたと思う、と。
このとき日本のジャーナリストや評論家たちは、その規模に「信じられない」という反応を示した。
事務所の最年長メンバーである東山紀之は、メインキャスターを務めるテレビ朝日の『サンデーLIVE!!』で5月21日、被害者たちの「勇気ある告白は真摯に受け止めねばならない」とコメントした。
一方、テレビに登場するコメンテーターは口をそろえて、噂は聞いていたが具体的なことは知らないと述べた。
だがここまで告発が相次ぐと、さすがの「ジャニーズ神話」にも取り返しのつかない傷がつく。現状、事務所側は防戦に追われている。