「男たちの胸板は変わらず分厚いが、物語は薄い」──ラップダンスの魔法がとけるとき
A Teaser of a Finale
マイク(チャニング・テイタム)とマックス(サルマ・ハエック・ピノー)は男性ストリップショーで勝負を賭ける ©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
<男性ストリッパーの魅惑のダンスと人間ドラマを描く大人気シリーズ『マジック・マイク』。最新作「最後のマジック」は、なぜ不発?>
カネに窮した家具職人の卵が、フロリダ州タンパのナイトクラブでストリッパーとして身を立てる。
2012年に『マジック・マイク』を監督したスティーブン・ソダーバーグも主演のチャニング・テイタムも、小さなインディーズ作品がここまで化けるとは思いもしなかっただろう。
15年にはストリップ色が濃い目の続編『マジック・マイクXXL』(監督はグレゴリー・ジェイコブズ)がヒット。ロンドンやラスベガス、マイアミの舞台でライブショーが上演され、21年にはリアリティー番組も放映された。
男性の筋肉質の体を愛でる楽しさと、ストレートの女性とゲイの男性の視線を意識した「マジック・マイク」は国際的なメディアブランドに成長した。
そう考えれば、ソダーバーグが再び監督を務める3作目『マジック・マイク ラストダンス』が、アメリカ南部の汚いストリップクラブではなくロンドンの由緒ある豪華な劇場を物語の舞台に選んだこともうなずける。
しかし残念ながら、『ラストダンス』はシリーズの熱狂的なファンの私に再び魔法をかけてはくれなかった。
お気楽でエロチックなマイク・レーンを演じるテイタムの魅力は色あせていない。
彼の顧客から恋人に、そして雇用主へと変わるマクサンドラ・メンドーザ(愛称マックス)を演じるサルマ・ハエック・ピノーも存在感を見せている。それなのに、どうにもエナジーが足りないのだ。
ソダーバーグと、3作とも脚本を担当するリード・カロリンは、「マジック・マイク」の基本を誤解しているのだろう。私たちが楽しみたいのはテイタムであり、鍛え上げられた仲間たちのダンスだ。
『ラストダンス』の序盤、マイクはマイアミの豪邸のホームパーティーでバーテンダーを務める。ホステスで資産家のマックスのためにラップダンスを披露する華麗な場面は、屋敷のあらゆる建築要素にみだらな使い道を見いだす。
しかし、その後は終盤に差しかかるまで、彼のダンスをじっくり楽しむ機会はない。約2時間の上映時間の大部分で、マイクはパフォーマーではなく興行主に徹し、離婚歴のあるマックスが財産分与で手に入れたロンドンの劇場で、男性ストリッパーショーを成功させようと奔走する。