【映画】「指を1本ずつ...」島民全員が顔見知りの「平和な島」で起こる、頑迷な人間を描くダークコメディー
Martin McDonagh’s Best Film Yet
2008年に公開されたマクドナー監督の『ヒットマンズ・レクイエム』は、中世のベルギーの街に潜む殺し屋コンビをグリーソンとファレルが演じたカルト的な傑作だったが、『イニシェリン島の精霊』はこの3人が組んだ映画の集大成と言えそうだ。
ファレルはいつも素晴らしい演技を見せてくれる役者だが、素朴だけれど奥の深いパードリックという男ほど彼にぴったりな役はないだろう。彼の身の安全や精神の安定に気をもみながらも、観客はファレルの顔の演技を見るだけで笑ってしまう。
グリーソンが演じるコルムも同様に印象的で、その抑制の利いた演技は、同じアイルランドの劇作家サミュエル・ベケットの作品の登場人物にもふさわしい。その他のキャストにもマクドナー作品の常連が多く、監督の意図をよく理解して、見る者を作品の世界に引きずり込む。
この作品が観客に与える最大の贈り物は、風変わりで親密な物語を、美しい孤立した場所での突然途切れた友情の悲しい物語にとどめ、それ以上の理屈っぽい寓話に仕立てなかったことだ。
この映画はモラルや友情、そして人生の究極の目的や意味について大きな問いを投げかけているが、マクドナーは私たちに、大切な友情や人生の選択について余計な教訓を垂れようとはしない。
最後のクレジット・ロールを見つめる私たちは、あの架空の島の住人と同じように、いったい何が何だったのだろうと途方に暮れる。でも、海は何も答えてくれない。
THE BANSHEES OF INISHERIN
『イニシェリン島の精霊』
監督╱マーティン・マクドナー
主演╱コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン
日本公開は1月27日