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映画評『ラーゲリより愛を込めて』 二宮和也演じる主人公が、ソ連兵への抵抗の先にみた希望の光
A MESSAGE OF HOPE
過酷な生活の中での山本と仲間たちとの友情が心に響く ©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子
<シベリア抑留がテーマの映画『ラーゲリより愛を込めて』の舞台でもあるハバロフスク出身の小原ブラスが見た戦争・憎しみ・希望>
第2次大戦後の混乱の中で起きてしまった惨劇、シベリア抑留をテーマにした映画『ラーゲリより愛を込めて』を見た。ラーゲリはロシア語で「キャンプ」という意味で、夏休みになればラーゲリに行くことを楽しみにしている子供たちも多い、ポジティブなワードだ。だが日本では「収容所」と訳され、つらい記憶を呼び起こす悲しい言葉となる。
■【写真】『ラーゲリより愛を込めて』二宮和也演じるシベリア抑留者・山本幡男/映画の予告編映像
過酷な環境下での終わりの見えない労働。耐え切れず命を落としていく仲間。誰もが絶望に陥るなかで「ダモイ(家に帰る)」を信じて生きる山本幡男(はたお)と、彼を待ち続ける妻モジミの愛の物語だが、それ以上に心に響くのは山本と仲間の深い友情だ。誰しも自分のことで精いっぱいなのに、仲間をかばい彼らにも希望を見せようとする山本。自分のために生きるよりも、誰かのために生きる人のほうがずっと強い。仲間の絶望が少しずつ希望に変わり、それぞれが強くなっていくさまにも着目してほしい。
正直、自分には理解のできない山本の行動がいくつもあった。あのように反抗的なことをしたらソ連兵に痛い目に遭わされるのは目に見えているのに、山本はわざわざ殴られにいくようなことをするのだ。映画の途中で少しいら立ちすら覚えた。しかし徐々に、その抵抗は人として生きる楽しみ、希望の火をともし続けるために必要な戦いだったのだと気付く。
その抵抗さえもやめてしまえば仲間同士の絆もできなかったし、おのおのが孤独に、少しずつ絶望の闇にのまれることになっただろう。
そしてロシア、まさに山本が収容されていた施設のあったハバロフスク出身の人間として、ソ連兵が捕虜に暴行を加えるたびに考えさせられた。なぜそんなことができたのかと。ひとたび戦争が起きれば憎しみは連鎖し、怒りをコントロールできず普通では考えられないようなことをやってのける人が増えるものだ。
ソ連の戦死者数は1450万人と、ドイツの285万人、日本の230万人を凌駕して世界最多だったといわれる。それだけの命を奪った戦争で、やり場のない怒りを敵側についていた国の人に向けて当然だというふうに、日本人捕虜に憎しみを向けたソ連兵もいたのではないか。戦争は人から理性を奪うのだ。
僕自身、シベリア抑留は歴史の教科書で学んだだけでなく、自分のSNSに批判的書き込みをされることも多かったので、ドキュメンタリーを見たり興味を持って調べたこともある。そして、こうした歴史がなければもっと良い両国関係が築け、僕も今より楽に生きられたのにとも思う。
憎しみの連鎖を終わらせるには、長い間戦争をしない、これしかないのではないかと僕は思っている。それなのに世界では今も戦争が続けられ、憎しみの感情が空を覆う。絶望しそうになる時代だからこそ、山本からの希望のメッセージが胸に刺さり、平和を守るための抵抗を続けたいと思えた。平和を信じたい。皆同じ人間だから。
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