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実在する猟奇殺人犯を「美化」したドラマ化...他人の悲劇で金儲けする罪深さ

Making Money Off Tragedy

2022年10月27日(木)18時40分
ミシェル・ライターズ(ロイヤルメルボルン工科大学犯罪・法学部副学部長)、グレッグ・ストラットン(同講師)、ジャリド・バートル(同講師)
ドラマ『ダーマー』

17人を凌辱し惨殺した有名殺人犯を人気のエバン・ピーターズが演じる COURTESY OF NETFLIX ©2022

<実在の猟奇殺人犯の人生に迫った『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』は、遺族の傷をえぐるだけでなく若者への悪影響も>

ネットフリックスで9月に配信が始まったドラマ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』が、物議を醸している。

ジェフリー・ダーマーは実在の猟奇殺人犯。少年を含む17人の男性を殺し、屍姦し、遺体を切り刻んで食べるなどした犯行が1991年に発覚。全米を恐怖のどん底に突き落とした。

ドラマはそんな犯罪者を明らかに美化しており、遺族の気持ちを無神経に逆なでしているようにも見える。

事実の正確な再現をうたうにせよ「実話に着想を得た」内容にするにせよ、実際に起きた複雑な事件を映画やドラマにすれば、作り手の脚色が加わることは避けられない。

脚色といっても、たいていは複数の警官を1人の架空の人物にまとめる程度。事実をはなはだしく変えるケースは少ないものの、事件がかなりゆがんで伝わる場合もある。

犯行現場となったウィスコンシン州ミルウォーキーの集合住宅に駆け付け、ダーマーの事件を最初に報じたジャーナリストのアン・シュワルツに言わせれば、ネットフリックスのドラマは「表現として有益ではない」。

シュワルツは警官の人物像が単純化されたことを批判し、隣の建物に住んでいた目撃者のグレンダ・クリーブランドを隣室の住人に設定し直すといった改変も問題視する。

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クリーブランド(右)はダーマーが住む隣室の物音や悪臭に不安を募らせていた COURTESY OF NETFLIX ©2022

不幸な出来事を食い物に

実際の事件に基づく作品のなかには過激な脚色に走り、超常現象まで盛り込んだものもある。

例えばチャールズ・マンソンのカルト教団による俳優シャロン・テートの惨殺を生々しく描いた『ハリウッド1969 シャロン・テートの亡霊』(19年)。

この映画のテートは夢で自分の死を予知するばかりか、あの世で事件のほかの犠牲者たちと会う。評論家のオーウェン・グライバーマンは、これを「悪趣味な、混じり気のない搾取」「カルト教団の蛮行を安っぽい恐怖に変えた」と酷評した。

映画・ドラマ化により事件が世間の目にさらされれば、被害者と家族の多くが怒りを覚え、心の傷をえぐられる。

殺人事件の犠牲者の遺族は、とりわけ立場が弱い。不正確な、あるいは無礼な描写があっても、対象が故人の場合は名誉毀損罪に問うことができないのだ。

ダーマーに殺された犠牲者の遺族の一部は、ドラマ化についてネットフリックスから相談も報告も受けなかったと怒りをあらわにする。

弟を殺害されたリタ・イズベルは、法廷で証言した際に思い余ってダーマーに詰め寄った痛ましい体験を承諾もなしに再現されたという。ウェブメディア、インサイダーに寄せた手記で彼女はドラマを「残酷でずさん」と批判し、「悲劇を金儲けの道具にされるのは悲しい」と嘆いた。

実録犯罪物から利益を得るのは誰なのか、というのは見過ごせない問題だ。映画会社や配信サービスが何百万ドルも稼ぐ裏で、被害者とその家族はしばしば好奇の視線やトラウマに苦しむことになる。

脚本家は否定したが、97年のオーストラリア映画『ブラックロック』は間違いなく14歳の少女が強姦され殺された87年の事件を下敷きにしている。遺族は映画を搾取的と非難し、「不幸な出来事を食い物にしている」と抗議した。

オンラインで殺人犯のファンダム(熱狂的なファンが形成する文化や世界)が台頭したのも、映画やドラマによる犯罪のポップカルチャー化が盛んになったことと無関係ではないだろう。

ブログ型SNSのタンブラーには、悪魔崇拝者を自任したリチャード・ラミレスからコロンバイン高校銃乱射事件の犯人に至るまで、あらゆる殺人犯にささげられたページがある。

テキサス州立大学オースティン校の研究者アンドリュー・リーコはこうした文化の裏に、世間を震撼させたい衝動を見る。加えて、扇情的な報道により殺人犯が闇のセレブに祭り上げられたのではないかとも指摘する。

ノースウェスタン大学の博士課程で学ぶサーシャ・アルタモノバは、殺人犯のファンダムをモラルに反旗を翻す「カウンターカルチャー運動」の一種と分析する。

アイドル起用の危うさ

『ダーマー』は、エバン・ピーターズを主演に据えたことでもたたかれた。

同じくライアン・マーフィー製作のドラマシリーズ『アメリカン・ホラー・ストーリー』でブレイクしたピーターズは、アイドル的な人気を誇る注目の俳優。Z世代御用達のTikTok(ティックトック)には、ダーマーを演じるピーターズの動画があふれている。

同様の批判は、青春ドラマ『ハイスクール・ミュージカル』出身のザック・エフロンが実在の連続強姦・殺人犯に扮した映画『テッド・バンディ』(19年)にも向けられた。

連続殺人犯に対する不健全な執着は、もちろん今に始まったことではない。終身刑で収監されたダーマーの元には、多くのファンレターのほかプロポーズの手紙まで届いた。

だがアイドル的な俳優にそうした人物を演じさせるトレンドを、危ぶむ声もある。投稿型プラットフォームのオデッセイで、あるライターは「影響されやすい年頃の若者が、知らず知らず危険な犯罪者に傾倒しかねない」と最近の風潮に警鐘を鳴らした。

そんな声が時代を先取りした警告なのか魔女狩りなのかは、まだ分からない。

人間の暗黒面に魅入られるのも、人のさが。殺人や死にまつわる陰惨な作品に引かれる観客が、この世から消えることはない。

『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』はNetflix 独占配信中

The Conversation

Michele Ruyters, Associate Dean, Criminology and Justice Studies, RMIT University; Greg Stratton, Lecturer - Criminology and Justice Studies, RMIT University, and Jarryd Bartle, Associate Lecturer, RMIT University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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