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フランス人監督が短編映画で描く日本人の死生観 なぜ高野山で撮ったのか?

2022年9月13日(火)17時00分
佐藤大輔

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© Pen Films / Braud Films / Noise Gate Circus / Origine Films

J.B. Braudが主役となる蒸発した女性、千里役に選んだのは、初作『IN THE STILL NIGHT』で起用したモデルの麻宮彩希だった。再び彼女を選んだ理由について彼はこう語る。

「彼女はプロの女優ではありません。しかし、非常に才能のある女性で素晴らしい表現力を持っています。言葉にできない繊細な心の動きを伝える力がありました。初作で彼女の魅力に気付いていたので、今回はもっと素晴らしい作品を作ることができると確信しました。一方で、もうひとりのメインキャストであるポール役のマキシミリアン・セヴェリンはプロの俳優です。ふたりはまったく違う方法で、自分の中に役を落とし込んでいきました」

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© Pen Films / Braud Films / Noise Gate Circus / Origine Films

本作は、フランス人と日本人の合同チームで制作された。そこに言葉の壁はなかったのだろうか?

「私は日本語はまったく話せません。脚本は英語で書きましたが、セリフの多くは日本語になりました。通訳・翻訳は日本人プロデューサーが担ってくれましたし、幸いなことに、その日本人プロデューサーと私は理解し合っていましたので、それぞれの言語領域において、お互いを信頼することができました。たとえば、日本語のセリフやアドリブの表現に違和感がないかは日本人プロデューサーの判断に任せ、私は表情や音に集中することができました。言葉の壁を障害と捉えるか、作品の面白さと捉えるか。その考え方で、作品の面白さも変わると思います。使用する機材も捉え方次第です。かつては高額なカメラを使用することが優れているとされてきましたが、いまはiPhoneでもよい作品が作れます。むしろiPhoneじゃないと撮れない絵もあるでしょう。こうしたように変化やハプニングを楽しみながら作品を作っていきたいですね」

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© Pen Films / Braud Films / Noise Gate Circus / Origine Films

今回の撮影を終え、映画の作り方に正解はないと感じたとJ.B. Braudは話す。言語の壁を壁と感じるか、それとも強みと捉えるか。彼は、異国である日本で、言語も文化も異なるスタッフとともに制作したことで、想定以上の素晴らしい作品ができたと感じている。

「映画のフォーマットは、以前は考えられなかった縦フォーマットなどが取り入れられるなど、どんどん進化しています。ですから、すべてにおいて現在の常識に捉われることなく創作していかなければなりません。これまで私たちは、映画をニッチなアートフィルムと、大衆向けメガ作品に分けて考えがちでした。けれど、きっと、その両方の魅力を備えた作品が作れるはずです。また、それを新しい時代で実現できるのが偉大な映像作家なのでしょう。そんな存在を目指していきたいですね」

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J.B. Braudは、パリと東京の間に暮らすクリエイターたちが、自分たちのインスピレーションを語るドキュメンタリーシリーズ「Paris-Tokyo」の監督も務めた。初の短編映画『IN THE STILL NIGHT』は、2019年にフランスのCanal+で公開され、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2020のほか複数の国際映画祭で賞を獲得。現在、長編映画を執筆中。

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『THE SOUND OF WATER』

監督: J.B. Braud
出演: 麻宮彩希、マクシミリアン・セヴェリン、朝香賢徹ほか
2021年 日仏共同制作 15分
制作:Pen Films / Braud Films / Noise Gate Circus / Origine Films


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