最新記事

日本社会

私たちはすでに「起業家マインド」を育てている──フリマアプリと「一億総株主」時代

2022年8月10日(水)08時02分
山本昭宏(神戸市外国語大学総合文化コース准教授)
スマホ

loveshiba_-iStock

<利用者を伸ばし続けるフリマアプリとYouTube。プラットフォーム上で、利用者は「起業家マインド」を鍛えているが、実はその歴史はすでに90年代には始まっていた。その背景にあったものとは?>

「一億総株主」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。2022年5月30日、自民党の経済成長戦略本部は政府に対して提言を申し入れ、資産所得の向上と消費拡大にむけて、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を求めた。その貯蓄から投資への流れを政治が後押しする狙いを「一億総株主」と表現された。(※1)

これには前史がある。1990年代後半以降の日本政治は、個人が投資に乗り出しやすい環境づくりに腐心してきた。貯蓄から投資へという考え方は、すでに90年代後半から存在し、2000年代にはNISAなどの税制優遇制度が整えられた。この時期は、日本の長期不況と重なっている

起業家マインドの浸透とフリマアプリ

「一億総株主」という言葉にさほど違和感はない。そのような環境が様々な経路を通して作られたのが、この20年間だった。その一例として、フリマアプリがある。

私自身、数カ月前、フリマアプリを始めてダウンロードして以来、毎日利用している。他のサイトと金額を比較し始めると、どんどん時間が溶けていく。

先日は、届いた商品を手にして「なぜ自分はこれを欲しいと思ったのか」を思い出せないということもあった。フリマアプリでは、「欲しい」という気持ちをうまく方向付けるフォーマットが巧みに設計されており、芋づる式に商品が出てきて、探す喜びがある。

そのフリマアプリだが、近年では中高年の利用者が増えていることもあり、市場規模は拡大の一途を辿っている。メルカリ、楽天のラクマ、ソフトバンク系のペイペイフリマなどの広告を目にする機会も増えた。

2021年9月に「リサイクル通信」が発表した調査結果によると、2020年のリユース市場規模は2兆4169億円に及び、今後も拡大すると予想されている(※2)。

直近の報道によれば、メルカリは2021年7月から2022年6月までの期間で75億円の業績赤字を記録したが、売上高自体は38.6%増の1470億円で、過去最高を記録している。やはり市場規模は拡大傾向にある。

フリマアプリが他のネット・ショッピングと異なるのは、出品者(売り手)になりやすいという点に尽きる。以前から存在する「Amazonマーケットプレイス」や「ヤフオク!」よりも、手軽に出品者になれるというのは、利用したことがあれば誰もが感じるところだろう。

出品者の側からみれば、まだ使えるモノを捨てずに済むという、地球に優しいというエコロジーの感覚を得られるのもあるかもしれない。また、強気の値段設定で売れたら嬉しいし、市場の動向をみて「せどり」や「転売」を試みるなど、「小商い」の楽しさもある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中