私たちはすでに「起業家マインド」を育てている──フリマアプリと「一億総株主」時代
他方で、これは「労働」でもある。商品の写真を撮って、説明文を書き、梱包して送る。買い手との連絡やクレーム対応もある。本来ならばリサイクル・ストアの店員がやっていた仕事を、ほとんど自分で一手に引き受けているのだ。
つまり、フリマアプリというプラットフォーム上で無意識に働き、自身の「起業家マインド」を育てているとも言える。
同じく「起業家マインド」という視点でいえば、YouTuberも該当するだろう。企画・構成・撮影・編集・PR・ブランディング・コメントでの視聴者のケアのすべてを自前でやりくりする一つの企業体といえる。それが、いまや「小学生がなりたい職業」ランキングの1位となっている。
人びとが集まるフリマアプリやYouTubeというプラットフォーム上で、人びとが競い合い、消費するという、ここに現代の縮図があるように思われる。
「一億総株主社会」へと向かうのか
現代では、FXから仮想通貨に至るまで、小額から始められる投資のプラットフォームがネット上にあふれている。
もちろん、投資の結果は「自己責任」である。しかし、政治家に「新しい資本主義」という号令をかけられる前から、私たちはその準備を自ら進めていた。人びとの投資マインドを刺激する環境づくりは一定の成果をあげたようだ。
2022年度から、高校の家庭科の授業では「金融教育」が始まり、投資や資産形成を中等教育で学ぶ時代が到来した。この社会を生き抜く技術を教えるのは必要なことなのかもしれない。
だが、投資は「必ず誰かが負ける」世界である。「起業家マインド」に必要なのは、技術だけではない。「自己責任」を言うだけでは足りない。投資による利益が生まれる背景に思いを馳せる社会的想像力も併せて身につける必要がありはしないか。
[注]
(※1)「眠っている国民の預貯金をたたき起こす 1億総株主 狙いは?」『中日新聞』2022年6月14日、24頁。
(※2)「リユース業界の市場規模推計2021(2020年版)」『リサイクル通信』第519号。
https://www.recycle-tsushin.com/news/detail_6396.php
[筆者]
山本昭宏
神戸市外国語大学総合文化コース准教授。1984年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。専門はメディア文化史・歴史社会学。著書に『核エネルギー言説の戦後史1945~1960──「被爆の記憶」と「原子力の夢」』(人文書院)、『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス)、『原子力の精神史──〈核〉と日本の現在地』(集英社新書)、『戦後民主主義──現代日本を創った思想と文化』(中公新書)などがある。