最新記事

映画

『ジュラシック』最新作、恐竜の「リアルさ」をマジメに検証してみると......

Here’s What Is Wrong

2022年7月15日(金)17時24分
ベン・イギールマン(英オックスフォード大学古生物学博士課程)
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』

恐竜がバイクに乗った人間を猛烈な速さで追い掛ける最新作の1シーン ©2021 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION LCC. ALL RIGHTS RESERVED.

<世界的人気を誇る『ジュラシック・パーク』シリーズが第1作以降に学んだこと。そして約30年たって公開された『新たなる支配者』でも克服できていないこと>

映画『ジュラシック・パーク』第1作の公開から30年近く。シリーズ最新作の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』が、6月10日にアメリカやイギリスで公開された(日本公開は7月29日)。

ティラノサウルス・レックス(Tレックス)やヴェロキラプトルなど人気の恐竜に加えて、今回は巨大な肉食恐竜ギガノトサウルスのような新顔も登場。ファンにとっては楽しみが増えた。

しかし、このシリーズの恐竜の描写はどのくらい正確なのだろう。

最新作のオープニングでは、第1作のファンにはおなじみの著名な古生物学者、アラン・グラント博士(サム・ニール)が登場する。米ユタ州で恐竜の発掘作業をしている彼は、完璧な状態で掘り出された恐竜の骨格に付いた砂を、はけで無造作に払っていく。

こうした発掘は今も世界中で行われ、古生物学者はこの作業を通じて恐竜への理解を深める。しかし実際の発掘作業は、こんなに簡単なものではない。金づちやのみを使い、何時間もかけて固い岩を少しずつ砕いて骨を取り出した後、研究室に持ち帰るまでに傷つけないよう細かな汚れを丁寧に取り除いていく。岩から1本の骨を取り出すのに、数日かかることもある。

こうして掘り出された骨のおかげで、私たちは「ジュラシック」第1作の公開以降、恐竜について多くのことを学んできた。映画に出てきた多くの恐竜(特に肉食恐竜)には羽毛があるはずだという知識も、その1つだ。

肉食恐竜のヴェロキラプトルにも羽毛があった。最新作に登場するヴェロキラプトルの子供は、本来なら鳥のひなのような柔らかい羽毛で覆われているはずだ。しかし数多く登場するそれらの子供には、羽毛が全く見られない。

220719p52_JPK_02.jpg

ヴェロキラプトルは本当はこのように羽毛に覆われているはず SEBASTIAN KAULITZKIーSCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

最新作に出てくるそのほかの恐竜には、羽毛がある。巨大な草食恐竜のテリジノサウルスは、映画の中でもフワフワの繊維状の羽毛に覆われている。頭から爪先まで成鳥のような羽毛に覆われているラプトル(小型肉食恐竜)も登場する。この点について最新作の描写は正確だ。

リアルさを欠く恐竜たち

羽毛の色の描写も、ほぼ正しい。古生物学者たちは、化石に残っていた色素を基に、一部の恐竜の羽毛の色を割り出している。

だが残念なことに、描写が間違っている部分も多い。

例えば映画の中のギガノトサウルスは、首の後ろと背中の真ん中にそれぞれ、ギザギザの突起が付いている。ギガノトサウルスにこのような突起があったという証拠は一切ないし、このデザインがそもそもリアルに見えない。

ギガノトサウルスは、「ジュラシック」シリーズがデザイン面で犯した最大の罪の犠牲にもなっている。それは「大きさ」だ。

映画に登場する恐竜のあまりに多くが、とにかく大きすぎるのだ。ギガノトサウルスはTレックスよりもずっと大きくて強い恐竜だという設定だが、両者は体の大きさも強さもほぼ互角だったことが分かっている。

220719p52_JPK_03.jpg

本作のギガノトサウルスは大きさも背中の突起も不正確 ©2022 UNIVERSAL STUDIOS AND AMBLIN ENTERTAINMENT. ALL RIGHTS RESERVED.

海の食物連鎖の頂点に君臨していたモササウルスも、大きさが誇張されている。ザトウクジラの2倍近い大きさに描かれているが、実際には成長したザトウクジラよりもいくらか小さいくらいだった。

最新作に登場するもう1つの重要な生物がイナゴ。「白亜紀の遺伝子」を使って遺伝子操作を行ったことで誕生した巨大イナゴだ。

確かに、幅1メートルのトンボなどの巨大な昆虫が存在した時代はあった。だがこれらの巨大昆虫がいたのは石炭紀と呼ばれる時代で、最古の恐竜が生きていた時代よりはるかに前のことだ。石炭紀の酸素濃度が現代より50%以上高かったことを考えれば、これほどの巨大イナゴは今の酸素濃度では生きていけない。

最新作には、ほかにも多くの新たな生物が登場する。主人公たちは、背中に船の帆のようなものが付いているディメトロドンの集団を撃退し、大きな牙を持つトカゲのようなディキノドン類として知られる生物に出くわす。

ところが実際には、ディメトロドンもディキノドン類も恐竜ではない。これらの生物が暮らしていたのは、恐竜が出現する3000万年以上前のぺルム紀と呼ばれる時代だ。それに実際には、哺乳類の祖先を含む爬虫綱単弓亜綱(はちゅうこうたんきゅうあこう)に分類される。恐竜よりも、私たち人間に近い生物なのだ。

最新作は、羽毛の描写や新たな種が導入されたという点で評価すべきところがある。しかし一方で、誤りや推測、誇張もたくさんある。

娯楽作品として楽しむ分には、もちろん全く問題はない。しかし恐竜について本当に何かを学びたければ、博物館に行ってみるなど別の選択肢をおすすめしたい。

The Conversation

Ben Igielman, PhD student palaeontology , University of Oxford

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中