最新記事

ウルトラマン

『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史

2022年5月18日(水)17時05分
文:幕田けいた 画像提供:円谷プロダクション ※Pen Onlineより転載
ウルトラマンシリーズ

円谷プロダクション

<若い肉体を求める誘拐犯から、避難民のエイリアン、化学物質を過剰摂取した猿まで――。環境問題や東西冷戦、核開発、人口問題など、さまざまな現実の社会問題をウルトラマンシリーズは描いてきた>

『シン・ゴジラ』は、震災や原発、安全保障、政治システムといったさまざまな社会問題の暗喩としても読み取れる作品であった。『シン・ウルトラマン』ではどんな問題が提起されるのか気になるところだが、そもそもウルトラマンシリーズは子ども向け番組でありながら、「特撮」というフィルターを通して、現実の社会問題も描いてきた。物語を俯瞰すると、もうひとつの戦後史、昭和史が見えてくる。現在発売中のPen 6月号『ウルトラマンを見よ』特集から抜粋してお届けしよう。

【環境汚染】

第二次世界大戦後、日本は科学によって急激に発展を遂げた。しかし同時に失ったものも大きい。自然環境である。アメリカでは1962年、生物学者レイチェル・カーソンが著し、化学物質の危険性を告発した『沈黙の春』がベストセラーとなり、環境保護運動が注目されていた。日本においても、人間が自然界の均衡を崩すことは無視できない問題であった。

「ウルトラQ」では化学物質で生物が巨大化する「五郎とゴロー」や「甘い蜜の恐怖」といったエピソードで、環境問題をいち早く描いた。公害病など、化学物質を垂れ流す危険性が科学的に検証され始めた時期だ。ほかに「帰ってきたウルトラマン」の「毒ガス怪獣出現」では、地中に廃棄された旧日本軍の毒ガスを食料にした怪獣が登場。米軍基地が有毒ガスを極秘貯蔵した隠蔽事件がモデルだ。また、本来の自然にはない膨大なエネルギーを求め、都市に怪獣が出現する「ウルトラQ」のバルンガなども。怪獣は人間が壊した自然環境の象徴なのである。

化学物質の過剰摂取により、猿が怪獣化して街に出没

■1966年 「五郎とゴロー」(ウルトラQ)

pen20220518ultraman-1.jpg

大猿ゴローは、エサを集めようと果物泥棒をして捕まった五郎を探して市街地に現れる。

旧日本軍が研究していた強壮剤を盗みだして食べた猿のゴローが、甲状腺ホルモンのバランスを崩して巨大化。仲のよかった五郎青年とともに市街地に現れる。近年、注視されている環境ホルモンなどの問題をテレビドラマで扱ったのはおそらく世界初である。時期的にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』の影響を受けているのは間違いないだろう。日本で農薬取締法大改正と使用禁止農薬の拡大キャンペーンが行われたのは、この番組が放送された後の1971年のことだ。

光エネルギーを吸収し、プリズム光線を発射

■1971年 「残酷! 光怪獣プリズ魔」(帰ってきたウルトラマン)

pen20220518ultraman-2.jpg

結晶のような姿の光怪獣・プリズ魔。太陽の黒点が変化したことで活動を始めた。

氷山の中に閉じ込められていた光怪獣プリズ魔が、不夜城・東京に接近。光を食べるプリズ魔は、繁栄の象徴である都市の照明に引き寄せられたのだ。この放送から2年後に発生した「オイルショック」で、日本は深刻なエネルギー問題に直面。現実に街から明かりが消える。この経験を踏まえ、1979年には「省エネ法」が制定。工場などの省エネ化や効率的な使用について規制される。本作にはエネルギー消費=繁栄の図式を見直そうという暗喩が込められている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、インフラ被災で遅れる支援 死者1万

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中