あらゆる要素を詰め込んだ『ザ・バットマン』、繊細で陰鬱なヒーローの青春物語
The Endless End-full
176分の上映時間はやけに長く感じるときもあったが、正確に言うなら「エンドレス」ならぬ「エンドフル」。いかにも結末っぽいシーンがいくつもある。
鑑賞後、私は同僚2人と結末にふさわしい場面について議論した。私が選んだのは、最後のクレジットの20分ほど前。人気急上昇中のスターが急転直下、新たな悪役になる瞬間だ(ネタバレになるからここまで)。
ゴッサム・シティのスパイダーマン
リーブスとパティンソンのつくり上げたバットマンは、両親を殺された悲痛を乗り越えられないハムレットのよう。黒い戦闘用スーツ、無尽蔵の富、攻略不可能なテクノロジーを擁するブルースは無敵の存在になれるはずだが、大人のアイデンティティーを模索する未熟なエモい青年は、さながらゴッサム・シティで生きるスパイダーマンだ。
「トワイライト」シリーズの恋するバンパイアで注目を集めたパティンソンは、デービッド・クローネンバーグやクレール・ドニ、サフディ兄弟など芸術作品を好む監督に寵愛されてきた。
今回のブルース役では真の哀愁を漂わせ、おなじみの筋骨隆々のスーパーヒーローより少々線が細い。キャットウーマンが助けに来る場面では、彼女のムチが必要なのだと思わずにいられなかった。
1989年のティム・バートン監督、マイケル・キートン主演の『バットマン』以来、実写版は12作目。ジョエル・シューマカー監督の悪名高い『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』では、ジョージ・クルーニーがバットマン印のクレジットカードをひけらかす滑稽なヒーローになり切った。
ノーランの重苦しい「ダークナイト」3部作ではクリスチャン・ベールがいけ好かないヒーローを、スナイダーのマルチスーパーヒーロー映画では、ベン・アフレックが感情を表に出さないヒーローを演じた。
30年以上に及ぶスクリーンの軌跡をたどれば、バットマンは自意識過剰なアイコンから、感情的に傷ついた世捨て人へと進化してきた。それは、アメリカがポップカルチャーのヒーローに求めるものが常に変化してきたという意味でもあるのだろう。
上映時間はあと30分短くできただろうし、結末らしい場面は3つも必要なかっただろう。それでも私はニルヴァーナのバラードを口ずさみながら、バットモービルで走り去る物憂げなブルース・ウェインはどこに行くのだろうと思いを巡らせ、帰途に就いた。
THE BATMAN
『THE BATMAN─ ザ・バットマン─』
監督╱マット・リーブス
主演╱ロバート・パティンソン、コリン・ファレル
日本公開中