最新記事

映画

あらゆる要素を詰め込んだ『ザ・バットマン』、繊細で陰鬱なヒーローの青春物語

The Endless End-full

2022年3月17日(木)17時24分
デーナ・スティーブンズ

176分の上映時間はやけに長く感じるときもあったが、正確に言うなら「エンドレス」ならぬ「エンドフル」。いかにも結末っぽいシーンがいくつもある。

鑑賞後、私は同僚2人と結末にふさわしい場面について議論した。私が選んだのは、最後のクレジットの20分ほど前。人気急上昇中のスターが急転直下、新たな悪役になる瞬間だ(ネタバレになるからここまで)。

ゴッサム・シティのスパイダーマン

リーブスとパティンソンのつくり上げたバットマンは、両親を殺された悲痛を乗り越えられないハムレットのよう。黒い戦闘用スーツ、無尽蔵の富、攻略不可能なテクノロジーを擁するブルースは無敵の存在になれるはずだが、大人のアイデンティティーを模索する未熟なエモい青年は、さながらゴッサム・シティで生きるスパイダーマンだ。

「トワイライト」シリーズの恋するバンパイアで注目を集めたパティンソンは、デービッド・クローネンバーグやクレール・ドニ、サフディ兄弟など芸術作品を好む監督に寵愛されてきた。

今回のブルース役では真の哀愁を漂わせ、おなじみの筋骨隆々のスーパーヒーローより少々線が細い。キャットウーマンが助けに来る場面では、彼女のムチが必要なのだと思わずにいられなかった。

1989年のティム・バートン監督、マイケル・キートン主演の『バットマン』以来、実写版は12作目。ジョエル・シューマカー監督の悪名高い『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』では、ジョージ・クルーニーがバットマン印のクレジットカードをひけらかす滑稽なヒーローになり切った。

ノーランの重苦しい「ダークナイト」3部作ではクリスチャン・ベールがいけ好かないヒーローを、スナイダーのマルチスーパーヒーロー映画では、ベン・アフレックが感情を表に出さないヒーローを演じた。

30年以上に及ぶスクリーンの軌跡をたどれば、バットマンは自意識過剰なアイコンから、感情的に傷ついた世捨て人へと進化してきた。それは、アメリカがポップカルチャーのヒーローに求めるものが常に変化してきたという意味でもあるのだろう。

上映時間はあと30分短くできただろうし、結末らしい場面は3つも必要なかっただろう。それでも私はニルヴァーナのバラードを口ずさみながら、バットモービルで走り去る物憂げなブルース・ウェインはどこに行くのだろうと思いを巡らせ、帰途に就いた。

THE BATMAN
『THE BATMAN─ ザ・バットマン─』
監督╱マット・リーブス
主演╱ロバート・パティンソン、コリン・ファレル
日本公開中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中