イカゲーム主役で世界を虜にした「名演技」、イ・ジョンジェがギフンになるまで
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大胆な演技で転機となった『ハウスメイド』 EVERETT COLLECTION/AFLO
<『イカゲーム』の主役ギフン役で世界の注目を集めるイ・ジョンジェ。惨めなのにパワーのある演技はいかにしてつくられたか>
「演技が少しマンネリ気味になり、演技そのものに対する興味がなくなっていた時期がありました。すると、必然的に面白い作品の出演オファーも少なくなってしまいました」
『イカゲーム』の配信から2週間ほどたち、世界的に大きな話題を集めていた10月5日。韓国の総合編成チャンネルJTBCの報道番組『ニュースルーム』に出演したイ・ジョンジェは「ドラマの登場人物たちのように逆境に追い込まれた経験は?」という司会者からの質問にこう答えた。
デビューから間もなくしてスターとなり、韓国で知らない人はいないほど有名な俳優として30年近くにわたりキャリアを積んできたが、その歩みは常に順風満帆ではなかったことが、彼の言葉から伝わってくる。
モデルから俳優へと転身したイ・ジョンジェは、1993年にテレビドラマに出演後、80年代を席巻した人気監督ペ・チャンホの『若い男』(94年)で映画デビューを果たす。肉体美を誇る主人公を鮮烈に演じて主要映画賞の新人男優賞を独占。翌年には平均視聴率50%を記録し社会現象ともなったドラマ『砂時計』で、女性主人公に寄り添う寡黙なボディーガードを演じて大ブレイク。放送したテレビ局に「彼を殺さないでほしい」という手紙が殺到するなど、アイドル並みの人気を獲得した。
ぎりぎりの大胆さで新境地
2000年代前半は、後にハリウッドリメークされた『イルマーレ』、日韓合作の『純愛譜』、三流コメディアンと不治の病に侵された妻の愛を描く『ラスト・プレゼント』と、ラブストーリーへの出演が続く。ファッショナブルな外見と優しい笑顔を武器に、ナイーブな恋愛もので魅力を発揮した。
その後は『黒水仙』(01年)、『タイフーン』(05年)と大型アクション映画に挑戦するも興行的に振るわず、9年ぶりにドラマ復帰を果たした『エア・シティ』(07年)でも、期待されたほどの成功を収めることができなかった。冒頭のコメントの「演技そのものに対する興味がなくなっていた時期」というのはこの辺りのことだったのではと推測される。
そんなイ・ジョンジェが俳優として大きくイメージを変え、復活を遂げるきっかけとなったのが、韓国映画史に残る名作『下女』をリメークした『ハウスメイド』(10年)。カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でも上映されたこの作品でイ・ジョンジェは、家政婦の女性を誘惑する財閥一家の主人をやりすぎギリギリの大胆さで演じ、新境地を開いた。
デビューから20年を経た13年は、彼にとって記念碑的な年となった。『新しき世界』で韓国最大の暴力組織に潜入した警察官に扮した後、時代劇『観相師』では、クーデターによって王座に就いた実在の人物・首陽大君を好演。映画の中で初めて登場した際のインパクトは強烈で、「韓国映画史上に残る最高の登場シーンの1つ」とも言われている。