イカゲーム主役で世界を虜にした「名演技」、イ・ジョンジェがギフンになるまで
PLAYING AGAINST TYPE
さらに同年、国立の韓国映像資料院が彼の代表作を上映する特別展を開催。「『スター』としてイメージを保持し続けると同時に『俳優』としても成長してきた映画俳優イ・ジョンジェの歩みを振り返ることは、1990年代から現在までの韓国映画の流れを振り返る意味深い機会になる」とのコメントを発表した。
『新しき世界』『観相師』での成功を受けて、イ・ジョンジェは出演時間が短くても強い印象を残すキャラクターを演じることが多くなった。日本統治下が舞台の『暗殺』(15年)では映画の最後で特殊メークを駆使して老人として再登場し、観客を驚かせた。ハスキーながらドスの利いた声で発せられた名せりふの数々も話題を呼び、現在に至るまで物まねやパロディーの定番となっている。
16年には、『太陽はない』(99年)での共演以来、親友として知られているチョン・ウソンと共に、マネジメント会社アーティストカンパニーを設立。演技以外にも活動の場を広げている。17~18年にはシリーズ2作が連続で観客動員1000万人を突破したファンタジー大作『神と共に』に出演。冥界裁判の統括者である閻魔大王に扮し、特別出演ながら貫禄を示した。
善人の「残酷さ」を表現
そんなイ・ジョンジェが『イカゲーム』で久しぶりに庶民的なキャラクターに扮し、人生のどん底であがく男の悲哀を見せた。街行く人を観察して生活感のある演技を研究したという彼が演じたギフンは、リストラ後に妻に捨てられ、母親のスネをかじっているにもかかわらず、競馬に有り金をつぎ込むという救いのない人物。だがどんなに惨めな役を演じても、主人公としてのパワーを失わないところに、長年トップ俳優であり続けてきた彼の力を感じさせる。
ゲーム開始前の写真撮影で無防備な笑顔を見せていたギフンの顔は、死闘をくぐり抜けるに従いすごみを帯びていく。参加者の中で最も善人であるように見えていたギフンが抱える欲望や残酷さを表現するには、彼のような俳優が必要だったのだ。
現在は、初監督作となる『ハント(仮題)』の撮影に全力投球中。情報機関の要員を主人公にしたスパイアクションで、チョン・ウソンとの約20年ぶりの共演にも注目が集まる。
数多くの現場を経験するなかで「映画の仕事は演技、製作、演出と別々に分かれているのではない」と考えるようになったイ・ジョンジェ。72年生まれの彼は日本の木村拓哉や浅野忠信、ハリウッドに目を移せばマット・デイモンやユアン・マクレガーと同世代だ。より広い視野を持って映画に関わるようになってきたのも、年齢を重ねてきた結果だろう。新たな一歩がどんな作品に結実するのか、期待して待ちたい。
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