必ず2回見たくなり、2回目に全てが納得できる『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
Tragic but Exhilarating
傲慢な態度に潜む不安
どちらの作品も20世紀前半の、まだ資本主義が荒々しかった時代の話で、金と権力が人間関係を狂わせる様子を緊密な家庭ドラマとして描く。そしてどちらの作品でも、主人公(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ではダニエル・デイ・ルイス演じるダニエル・プレインビュー、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ではカンバーバッチのフィル)は傲慢で自信に満ちた態度の裏に底なしの不安を抱えており、限界に追い込まれると底なしの悪意をむき出しにする。
数少ない言葉の応酬から、私たちはフィルが大学出の古典学者であることを知る。ならば聡明な人物のはずだが、なぜか辺境の地でカウボーイとして生きることを選び、雄牛を去勢し、牧場の使用人をいたぶる日々を送っている。いつも革のズボンをはき、文明生活への些細な譲歩(入浴など)も拒んでいる。
最初に見たときは、話が単純すぎて映像の雄大さに負けている感じがした。でも2度目に見たら、緊密に構成された推理小説のようなプロットが明確になった。無駄なものは一つもない。暴力的で衝撃的な結末にも納得できる(上映時間は2時間を超えるが、あっという間だ)。
さすがは名監督カンピオン。全編に漂う不気味な雰囲気を含めて、全てを最初から最後まで完璧にコントロールしている。
カンバーバッチはハンサムで愛想のいい俳優で、親しみやすい役柄が多かったが、今回は粗暴だが傷つきやすいフィルを演じて新境地を切り開いた。体つきからして完全に別人だ。がに股で歩くのは、いつも馬に乗っているカウボーイだから。姿勢が硬直しているのは、いつも悪意をみなぎらせているからだ。
この屋敷に閉じ込められ、絶望の日々を送るローズを演じたダンストも生涯で最高の演技。いつも素晴らしいプレモンスは、他の出演者より画面に登場する時間も演じる行為も少ないが、ローズとの親密な場面ではものすごく優しいところを見せる。
ローズの息子ピーターを演じたスミット・マクフィーもいい。深い感受性と固い意志の力を求められる難役を見事にこなし、カンバーバッチに負けていない。
なおタイトルの由来は聖書の詩編22。作中ではある人物が高らかに朗読する。「わが魂を剣から救い、わが身を犬ども(パワー・オブ・ザ・ドッグ)から救いたまえ」
つらい運命からの救済を求める叫びなのだが、この映画では何を意味するのか。ここでの「身」は誰の身で、「魂」は誰の魂か。監督はあえて答えを示さず、最後はカタルシスと悲劇と高揚の三重奏で終わる。だから巻き戻して、また最初から見たくなる。
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THE POWER OF THE DOG
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
監督/ジェーン・カンピオン
主演/ベネディクト・カンバーバッチ、キルステン・ダンスト
ネットフリックスで配信中