きざなイケメン俳優が、「一流」になるために必要だった「屈辱」
No More Mr. Nice Guy
『レッド・ノーティス』ではうぬぼれ屋の詐欺師を演じる FRANK MASI/NETFLIX ©︎2021; PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE. IMAGES VIA 20TH CENTURY FOX, WARNER BROS. PICTURES
<きざな笑顔が抜けないライアン・レイノルズが、スター俳優の仲間入りを果たした「秘策」は、進んで恥をかいたことにあった>
カルチャー担当の編集者として私が最も苦労したことの1つは、ライアン・レイノルズが「いつかきっといい俳優になる」と人々を納得させることだった。
彼が出演した青春映画『アドベンチャーランドへようこそ』は2009年のサンダンス映画祭で話題になったが、このとき注目されたのは若きスター、クリステン・スチュワート。そんななかレイノルズの潜在的な能力を辛口評論家たちに納得させるのは、かなりの難題だった。
だが最近、ようやくうまい説明が見つかった。彼はろくでなしの役が最高なんだ、と。
ニュースサイトのハフポストは今年に入って、レイノルズを「ハリウッドで最も好感度の高いスター」と紹介。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、彼は「努力して成功を勝ち取り、家庭も順調な3人のパパ」だと、考え得る中で最高のナイスガイと評価した。
そんな彼だが、映画の中でナイスガイを演じてもなぜかしっくりこない。顔もスタイルも頭のキレもいい白人男性にしては、彼のスターへの道のりは驚くほど険しかった。
これまでレイノルズはロマンチックコメディーからアクション映画、さらにはコミックの実写版に至るまで数々の作品に出演してきた。それらの役に共通するのが、彼のきざな笑顔。どれだけ努力して心優しいヒーローを表現しようとしても、こびを売っているように見えてしまう。
デッドプール役で評価が一変
その評価が一変したのが『デッドプール』だ。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年)で初めてデッドプール役を演じたときの彼は口元を縫われ、きざな笑いを封印していた。
だが16年に再びデッドプールを演じたときには口の縫合を解かれ、笑いも復活。口の悪いアンチヒーローとして、観客に絶え間ないジョークを浴びせた。映画は大ヒットし、R指定映画の商業的可能性をめぐる通念を覆した。
レイノルズは前述のWSJの記事の中で、40歳間近で撮影に臨んだ『デッドプール』が、映画スターの座をつかむ最後のチャンスと自覚していたと語っている。彼はそこで大きな方向転換を図った。生来のきざな笑顔を封印しようとするのではなく積極的に出すことにした、つまり自分のものにしたのだ。
傷ついた顔に赤い覆面をし、気の利いたジョークを繰り出す新生デッドプールは、観客に好意的に受け入れられた。