壊れかけでも「強い絆」は確かにあった、超大作『ザ・ビートルズ』が伝える真実
A Long and Winding Road
『ザ・ビートルズ』は最新の技術で修整した映像により、当時20代後半だった4人の若さを鮮やかに伝える PHOTO BY LINDA MCCARTNEY. ©2020 APPLE CORPS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
<約8時間という超大作だからこそ『ザ・ビートルズ:Get Back』からは、時代を変えたバンドの創造性と心の機微がリアルに伝わる>
童顔の警官は、ピーター・ジャクソン監督が新作ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』に盛り込んだ伝説の1つ。20歳そこそこにしか見えないこの若者、実はビートルズ最後のアルバム制作に迫った1970年の映画『レット・イット・ビー』にも映っていた。
69年1月30日、ビートルズは自らロンドンに設立したアップル・コア社の屋上で、突如ライブを行った。『ザ・ビートルズ』も『レット・イット・ビー』も、この伝説の「ルーフトップ・コンサート」がクライマックスだ。
騒音苦情が殺到し、ライブを止めようと駆け付けたのが、その童顔の警官だった。「治安妨害です。こんな騒ぎは必要ないでしょう?」
彼の言い分が間違っていたことは、歴史が証明している。これは時代を変えたロックバンドにとって、最後のライブになったのだから。
とはいえ、警官の制止も分かる。ビートルズは平日のオフィス街で白昼堂々、ゲリラライブを敢行したのだ。
『ザ・ビートルズ』は『レット・イット・ビー』用に撮影された60時間の映像と150時間の音声を再構成し、ライブまでの紆余曲折を伝える。
最先端のデジタル技術を使い、ビートルズを古い映像の墓場からよみがえらせた点も素晴らしい。映像もサウンドも、きのう撮影・録音されたかのように鮮やか。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人組がこれほど生身の、そして現代の人間に見えたのは初めてだ。
自社ビルの屋上しか行き場がなかった
ビートルズは当時、身動きが取れなくなっていた。どこに行ってもマスコミやファンに追い掛けられて安全すら確保できず、66年には公演活動を停止。67年にマネジャーのブライアン・エプスタインが死去するとグループの結束は弱まり、20代後半だった4人は私生活の変化もあって、関係がぎくしゃくした。
新しいアルバム用に曲を書いて公演を行うと決めたが、期限を69年1月末としたことが4人の首を絞める。年初にスタジオに入ったものの曲作りは思うように進まず、リハーサルの時間も会場の選択肢も日に日に減っていく。結局4人には、自社ビルの屋上しか行き場がなかった。
ディズニープラスで配信中の『ザ・ビートルズ』は150分の映画として劇場公開されるはずが、コロナ禍で映画館が閉鎖。ジャクソンは映像を追加し、8時間近い3部構成の超大作に仕上げた。