最新記事

韓国ドラマ

『イカゲーム』の悪夢が世界をここまで虜にする理由

ENJOYING THE GAME

2021年11月9日(火)18時45分
キム・ギョンヒョン(脚本家、カリフォルニア大学アーバイン校教授)

だが、昔の寓話や詩、絵画に見られる桃源郷の描写から、村上春樹のポストモダン小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に至るまで、東アジアで紡がれてきた物語では、幻想への一時逃避が重要な要素となってきた。

本作は世界全体が資本主義のゲームにのみ込まれ、もはや逃げ場がないことを常に突き付けてくるドラマで、しかもネットフリックスで世界に発信されている。その中に現実と幻想が並行して語られる東アジア的スタイルが取り入れられているのだ。

セビョクとジヨンにとって、自分たちでつくった幻想の世界以外に出口はない。幻想は2人を生き延びさせてはくれなかったかもしれない。だが、勝者になるか敗者になるかの選択を強いるシステムに閉じ込められた2人にとって、多少なりとも救いにはなったはずだ。

magSR20211109enjoyningthegame-6.jpg

EVERETT COLLECTION/AFLO

さて、このドラマでは終盤に、人生についてのある「真実」が語られる。ゲームは観戦するより参加するほうがはるかにエキサイティングだ、というものだ。

プロのスポーツ選手になれる技量が自分にはないと分かっていても人々が長い時間をスポーツに費やすのは、プレーすることの喜び故だ。仕事も同じ。資本主義制度においては、骨の折れるつまらない仕事や不公平な報酬、雇われる側の立場の不安定さに対する不満は仕事に常に付いて回るものだった。

もし『イカゲーム』から学ぶことがあるとすれば、それは人生へのアプローチは変えられるということだ。

私が9歳の娘とモノポリーで遊んだときのこと。始めてから数時間、私の負けが不可避と分かると娘は大泣きした。ゲームが終わるのが悲しかったからだ。ゲームを続けられないなら、勝者になっても意味はない。

たぶん私たちは、子供時代には身近だったゲームをプレーすることの喜びを、自分自身の手で再発見しなければならないのだろう。大事なのは勝ち負けではない。働くことにも生きることにも喜びを見つけるということだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中