NFTにオークション大手が続々参入 「変化するアート」今後の課題は
競売大手クリスティーズ、サザビーズ両社の現代美術分野の売上のうち、「非代替性トークン(NFT)」は約5.5%と、昨年の開始以来飛躍的に伸びている。写真はアンディ・ウォーホルとビープルによるデジタル作品。香港のデジタル・アート・フェアで9月撮影(2021年 ロイター/Tyrone Siu)
約240年前、レンブラントやルーベンスの傑作をエカテリーナ2世に売ったジェームズ・クリスティーは、自分のオークションハウスが将来、「バーチャルなサル」を暗号資産運用会社に100万ドル(約1億1000万円)以上で提供することになるとは夢にも思わなかっただろう。
1744年に入手困難な書籍を1000ドルほどでオークション販売していたサザビーズ創業者のサミュエル・ベーカーも、いつか自社がワールドワイドウェブ(WWW)のオリジナルソースコードを「非代替性トークン(NFT)」として500万ドル超で販売する日が訪れることは想像しなかったに違いない。
時代は変わる。
「誰もがNFTを売りたがっている」と語るのは、サザビーズで科学・ポップカルチャー部門のグローバル統括責任者を務めるカサンドラ・ハットン氏。「メールの受信箱が、その手のメールで溢れかえっている」
サザビーズが2021年に販売したNFTは、すでに6500万ドル相当に及ぶ。ライバルであるクリスティーズも、この新たなクリプト資産を1億ドル以上も販売した。NFTはブロックチェーンを利用し、画像や動画などのデジタルアイテムの「所有者」を記録する。だがその一方で、そうしたアイテムは他のオンラインファイルと同様に、自由に閲覧、複製、共有することが可能だ。
アートマーケット・リサーチが提供するデータによれば、クリスティーズ、サザビーズ両社の現代美術分野の売上のうち、NFTは約5.5%を占める。NFTの販売は昨年開始されたばかりだから、これは飛躍的な伸びだ。
大手オークションハウスでNFTの販売を担当する美術専門家がロイターに語ったところでは、NFT購入者の多くは、両社の得意先である富裕層の中でも新しいタイプ、すなわち暗号資産(仮想通貨)の分野で財をなした人々だという。サザビーズが6月にオンラインで販売したNFTは1710万ドルの売り上げをもたらしたが、購入者の70%近くがこうした新規顧客だった。
たとえば先月ロンドンのクリスティーズに出品され、98万2500ポンド(約1億5000万円)で落札となったサルのイラストのNFT3点を購入したのは、ネクソという暗号資産融資サイトを運営するコスタ・カンチェフ氏だった。
「退屈したサルのヨットクラブ(Bored Ape Yacht Club、BAYC)」と題された一連の原画は、クリスティーズが欧州で最初に販売したNFTであり、パンデミック以降では最大となった対面オークションの場で競売にかけられた。
時代の変化を象徴するように、カンチェフ氏が会場で肩を並べていたのは、デービッド・ホックニー、ジャンミシェル・バスキア、ブリジット・ライリーらの作品を狙う美術コレクターたちだった。
カンチェフ氏と共にネクソの経営に当たるアントニー・トレンチェフ氏は「会場の前の方にはスーツを着た人たち、脇の方には会場にいない参加者からの指示を仰ぐために電話に向かう人たちがいた」と語る。「そして後ろの方には、起業家や暗号資産業界の人たちが入札していた。スーツではなかったよ」