最新記事

アメリカが愛する大谷翔平

【大谷翔平MVP】取材歴35年MLBベテラン記者が語る「野球の神様ベーブ・ルースを超える偉業」

A SINGULAR GREATNESS

2021年11月19日(金)11時30分
ゴードン・イーズ(スポーツジャーナリスト)

ベーブ・ルースはレッドソックス時代は二刀流選手だったが(写真左、1918年)、ヤンキース移籍後は打者一本に(右、1922年) BRUCE BENNETT STUDIOS/GETTY IMAGES (LEFT), BETTMANN/GETTY IMAGES

<元祖二刀流ベーブ・ルースが所属したレッドソックスの元公式歴史家が証言する。ショーヘイ・オオタニはハレー彗星と比較する向きもある100年に1度の「現象」だ>

ベーブ・ルースはアメリカ人の心の中に生き続ける偉大なる「野球の神様」だ。そのルースと比較されるのは、野球選手にとって常に危険な経験だった。

1961年、ルースのシーズン本塁打記録更新に近づいたロジャー・マリスは、プレッシャーで髪の毛が抜け落ちた。当時の米大リーグ(MLB)のコミッショナー、フォード・フリックは「バンビーノ」(ルースの愛称)を1本上回る61本というマリスの偉業にアスタリスク(*)を付けて参考記録扱いにすることにした。

理由は、1シーズンの試合数が多かったから。実際にはルースが60本打った1927年シーズンより7打席多いだけだったが、その事実にはほとんど誰も触れなかった。

1974年、ハンク・アーロンがルースの通算714本塁打を更新したときには、嫌がらせや殺害の脅迫が殺到した。

そして2021年――。MLBで投手と打者の二刀流に挑戦する日本の大谷翔平を、100年以上前のルースと同列に扱うことに異論を唱える人々がいるのは間違いない。

だが、筆者は違う。記者として35年以上野球を取材し、ボストン・レッドソックス(ルースを投手と外野手の両方で起用したチームだ)の「公式歴史家」を5年間務めた私の目から見ても、ショーヘイ・オオタニはこれまでの人生で最も偉大な野球の物語であり、ハレー彗星と比較する向きもある100年に1度の「現象」だ。大谷が21年に成し遂げたことは、第1次大戦期のルースの偉業を超えると断言できるだけの根拠が十分にある。

当時のルースよりすごい理由

数字に関しては、セイバーメトリクスの分析専門サイトとして名高いベースボール・プロスペクタスにもあるように、大谷は既にルースが投手兼野手としてシーズンをフルに戦った1919年の成績を超えている。

この年のルースは打席数543、投球回数133回1/3。両方の数字を足すと676・1/3だった。一方、大谷はロサンゼルス・エンゼルスでレギュラーシーズン終了時点で、打席数(639)はルースを上回り、投球回数(130回1/3)もルースに迫った。

ルースは球界初の偉大なホームラン打者として野球の世界に革命を起こしたが、大谷の二刀流もそれに匹敵する傑出度だ。スポーツ、特に野球の専門化が進む今の時代に、投打両方で最高レベルのパフォーマンスを披露しているのだから。

20世紀初頭の野球は、現代野球とは似ても似つかないものだ。ルースへの侮辱では決してないが、全盛期のルースが当時の用具を使い、8月18日に大谷がデトロイトでやったようなことはできなかったはずだ。この日の大谷は8回表に打球速度約177キロのホームランを放ち、その裏に約158キロの速球を投げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中