セウォル号事件、フェミニズム...作品性と大衆性を兼備した韓国の社会派映画5選(権容奭)
3番目は、『チェイサー』『哀しき獣』で高い評価を得たナ・ホンジン監督の『コクソン/哭声』(2016年)だ。
韓国南部の片田舎・谷城(コクソン)に國村隼扮する「謎の外地人」が現れてから連続殺人事件が起きる......。
前作同様、息もつかせぬ展開、圧倒的な没入感、強烈に刻まれるダークな残像はそのままに、オカルトホラーに宗教を絡め、善と悪、神と悪魔、土俗信仰とキリスト教、夢と現実の間を疾走する。
筆者は2016年夏のソウルで見たが、「革命前夜」の暗鬱な雰囲気に妙にマッチしていた。また「被害者はなぜ被害者になるのか」という疑問や、右往左往して役立たずの警察の存在はセウォル号事件を彷彿させる。悪と暴力を傍観する「神への疑念」は、遠藤周作の『沈黙』を想起させる。
釣り餌と魚、ふんどし、おはらい、カメラ、カラス、洞窟などの暗喩を推理しながら、祈禱師、外地人の正体に迫ろう。
ポスターにあるように、監督の反則まがいの餌には「絶対に惑わされるな!」。キリスト教の知識があれば、本作を「反日」とする声に惑わされることはないだろう。
韓国では大統領選の年に政治映画の傑作が生まれてきた。2012年には盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領をメタファーにした『王になった男』が大鐘賞映画祭15冠に輝いた。
2017年も、検察改革の必要性を刻印させた『ザ・キング』、南北関係を扱う『鋼鉄の雨』、光州民主抗争(光州事件)を外部者の視線で描いた『タクシー運転手~約束は海を越えて~』など秀作がめじろ押しだった。
なかでも民主化闘争の実話に基づく『1987、ある闘いの真実』(2017年)は歴史に残る名作だ。
荒唐無稽でも唯一無二
1987年1月の学生の拷問死疑惑に端を発した「6月民主抗争」により韓国は軍部独裁を打破し、民主化を勝ち取った。
本作は政治に無関心だった若者の覚醒の物語を通じて、今の「キャンドル世代」と80年代の6月抗争、光州民主抗争を一本の線でつないだ。自覚ある主体的な市民が民主主義の最後のとりでであることを改めて思い知らされる。
日本がバブル経済で浮かれていた80年代、隣の韓国ではこのような壮絶な真実の物語があったことをぜひ知ってもらいたい。
豪華キャストが結集しただけで必見だが、その中で初々しい魅力を放つ新人キム・テリの演技が印象的だ。