最新記事

韓国映画

セウォル号事件、フェミニズム...作品性と大衆性を兼備した韓国の社会派映画5選(権容奭)

2021年5月10日(月)20時40分
権容奭(クォン・ヨンソク、一橋大学大学院法学研究科准教授)
権容奭(クォン・ヨンソク)

<『コクソン/哭声』や『1987、ある闘いの真実』など、韓国では「ろうそく革命」の前後に熱い映画が数多く誕生した――と、一橋大学のクォン・ヨンソク准教授。そして「一本だけ推すならこの作品」という『地球を守れ』とは>

1.『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)
2.『荊棘(ばら)の秘密』(2016年)
3.『コクソン/哭声』(2016年)
4.『1987、ある闘いの真実』(2017年)
5.『地球を守れ』(2003年)

韓国映画には政治や権力を果敢に批判し、歴史・社会問題に触れる作品が多い。しかも作品性と大衆性を兼備する点が強みだ。

とりわけ、朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に追い込んだ「ろうそく革命」の前後、2015~17年には社会派映画が数多く誕生した。

ここではセウォル号沈没事件(2014年)のトラウマ、権威主義的な公安政局下での閉塞感から「解放」へと導いた作品を中心に紹介したい。

まずは権力構造の闇に真正面から切り込んだ社会派サスペンスの傑作『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)。映画は実際の事件をモチーフに、政治・検察・財閥・言論による「権力のカルテル」の存在とメカニズムをあぶり出した。

韓国を支配する者たちの非道と堕落を赤裸々に描き、なかでも言論権力に焦点を当てる。ペク・ユンシク演じる新聞の論説主幹の「大衆は犬豚どもです......直に静かになります」という言葉は「ろうそく集会」への導火線となった。

その渦中に青龍映画賞主演男優賞に輝いたイ・ビョンホンは「現実が映画を追い越した」と語った。わざと言葉を入れ替え、名ぜりふとして流行語にもなった「モヒートに行ってモルディブ一杯やろうか」は彼のアドリブだ。

Klockworx VOD-YouTube


本作には3つの「すごい」がある。

権力に批判的な文化人を排除するブラックリストを作成した朴政権下で、本作を誕生させた勇気がすごい。ハリウッドに進出し、名実共に韓国一の俳優となったイ・ビョンホンが問題作に出るのもすごい。そして、本作に作品賞を与える韓国という国は本当にすごいと思う。

大統領選の年に傑作が

次に、近年の韓国のトレンドであるフェミニズムを反映した『荊棘(ばら)の秘密』(2016年)。

選挙を前にした政治家の娘の失踪事件から物語は始まる。ありがちな政治サスペンスかと思いきや、韓国映画の特技であるジャンルの混用を巧みに操り、最後はフェミニズム映画として着地する。

MIDSHIP 公式チャンネル-YouTube


主演は純愛・清純の代名詞的存在、『愛の不時着』のソン・イェジン。フェミとは程遠いイメージの彼女だが、本作で初の母親役に挑み、社会の不条理に立ち向かう独特な母性と女性像を提示した。今まで見たことのない彼女の複雑な「顔」に注目だ。

監督はパク・チャヌクの申し子と言われるイ・ギョンミ。商業性と芸術性の綱引き、テーマの巧みな擦り込み、クリシェを打ち砕く演出など今後が期待される監督だ。

交通事故で急死した故キム・ジュヒョクの名演も光る。ただ興行は23万人と惨敗で、なぜこれほどの作品が失敗したのか話題になった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中