最新記事

ジョンのレガシー

ジョン・レノンを国外追放の危機から救った最強の弁護士【没後40年特集より】

2020年12月23日(水)17時00分
リオン・ワイルズ(弁護士)

NW_BEN_04.jpg

反戦派のジョンとヨーコは米国政府に嫌われていた

「ジョンはすぐに来ます」とヨーコは言った。

「先に、いくつかの点をお知らせしますね。問題は、彼にドラッグ絡みの有罪歴があることです。でも彼は頻繁にアメリカに来る必要がある。仕事の契約とか、レコードや印税とかの話があるから......。それから私たちには娘がいます。私が前の結婚で儲けた子で、キョーコといいます。娘の父は『有名人のジョンとヨーコ』に娘を奪われると思い込んでいて、話にならない。ずっと私たちを避けていたので、ヨーロッパ中を探し回りました」

ヨーコはずっと私の顔を見つめていた。私が彼女の境遇に同情しているかどうか、確かめるためだ。

ジョンは怒った主婦のように

夫の在留資格や自分の悩みに関わる法的問題に、ヨーコは精通していた。

「私たちは米国政府の政策、とりわけベトナム戦争には批判的なので、政権から煙たがられています。滞在延長の申請が却下されたら、私たちは困ってしまう」彼女は前かがみになり、懇願するように手を差し出した。「いざとなれば、彼らは私のパフォーマンスを口実にするかもしれない。私がやるのはコンセプチュアルアートで、やり方が普通じゃない。ここのフィルハーモニックを聴きに行って、そのとき座席で立ち上がって、楽団を指揮したんです。お金はもらってないし、たいていの人はパフォーマンスと認めないでしょうけど、これは私にしかできないアートなんです」

自分はジョンの妻である以前に1人の芸術家だと、ヨーコは言いたかったのだろう。アランはしきりにうなずいていたが、彼のボスのクラインはまるで無関心で、相変わらず彼女を見ようともしない。

すると奥の部屋から、茶色の髪をほとんど肩まで垂らした細身の若者が姿を現した。ジョン・レノンだ。その笑顔は気さくで尊大さのかけらもなく、私に握手を求めてきた。

「あなたが入管法に強い弁護士さんですね、こんにちは」それから、来客に何も出していない亭主に腹を立てた主婦のように、「お茶を入れますね」と言った。彼はキッチンに行き、やかんを火にかけ、戻ってきて私に尋ねた。「私たち、ずっとここにいられますか、キョーコが見つかるまで?」

そこでクラインが口を挟んだ。ジョンがアメリカに来るときはいつも自分が代理人を務めてきた、議会にも働き掛け、彼のマリフアナ所持の有罪歴が問題にならないようにしてきたんだ......。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サムスン、第1四半期のAI半導体低迷を警告 米の対

ワールド

ガザ検問所に米退役軍人配置へ、イスラエル・アラブ諸

ワールド

米レーガン空港、ヘリとのニアミス事案頻発 80年代

ビジネス

コマツ、今吉専務が社長就任へ 小川社長は会長に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中