韓国キム・ギドク監督、コロナで死去 世界三大映画祭受賞の巨匠とセクハラ醜聞、本当の姿は?
良くも悪くも子供のような人
エネルギッシュな人柄で、そのパワーは超時短撮影といわれる彼の撮影現場でも垣間見られた。それはまるで監督の一人舞台を見ているような感覚だった。
良くも悪くも子供のような人である。好奇心が旺盛で、自分が興味のある物や事柄を次回作ではすぐに反映させる。そして、それは普通の大人なら羞恥心によって隠すであろう女性への執着ですらも、映画の中で生々しく表現されている。
それがたたってか、作風から女性蔑視者であると言われ、撮影現場や映画祭会場でもよからぬ行動が噂された。そして、2008年オダギリジョー主演の映画『悲夢』では、自殺未遂シーンで女優が死にかける事故が起こった。
主演予定だった女優からの告発、そしてMeToo
その後3年間、彼は人里離れた山に籠って生活をしていた。3年後、その隠とん生活を描いた映画『アリラン』で復活し作品作りを続けたが、彼へのスキャンダルイメージを決定的にしたのが2017年、映画『メビウス』で主演予定だった女優からの暴行告発である。
その女優曰く、演技指導として頬を殴られ、合意のなかったベッドシーンを強要されたという。また、劇中登場する男性器も、偽物使用と聞かされていたが、撮影当日になって本物で演技しろと言われたそうだ。この訴えは裁判にかけられ、結果的にキム・ギドクがこれを認めて罰金を支払った。
翌年、ハリウッドから始まったMeToo運動が世界で活発化するなか、キム・ギドクの周囲のスタッフ、元出演者たちから次々と告発の声が上がる。さらに、ハンギョレ新聞女性記者も、インタビュー中にセクハラ行為を受けたことを発表し話題となった。
同年3月、告発スクープで人気の報道番組『PD手帳』で女優2人がセクハラ/レイプを告白したが、キム・ギドクは否定し、番組側を名誉棄損で訴えるも、PD手帳は迎え撃つかのように追加の告発内容で構成した続編の放送を発表した。
韓国で上映禁止の新作を日本の映画祭が招聘
こうした一連の流れから、2018年に制作した映画『人間の時間』は国内上映禁止になったが、2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭が、これをオープニング作品に選出した。そのことを知った韓国の女性団体から抗議文が送られたが、ゆうばり映画祭側は上映決定を覆すことはなく、「犯罪を擁護してはいない」と回答し、作品とスキャンダルを切り離した考えを表明した。映画祭開会日には抗議者が数人会場へやってきたそうだ。
そして今年、キム・ギドクは移住準備のため、妻と娘を韓国に残しラトビアへ飛び立ったが、今月になって連絡が途絶え、12月11日コロナウィルスの合併症による死亡が確認された。