韓国映画館、コロナに追い込まれ崖っぷちの選択 20年で料金2倍に
ハリウッドの大作封切りに合わせて値上げ
そして、そのわずか2年後の2018年、さらに1000ウォンの値上げが行われた。2016年、2018年ともに家賃・人件費等の値上がりが理由と発表されている。人件費の面でいえば、2018年韓国政府は最低賃金の引き上げを強行し、これによって映画館での人員削減と無人化がより進められ、その設備投資にお金がかかってしまったようだ。
このように、物価や家賃の上昇が影響していることはもちろんだが、値上げが行われたタイミングをみると、確実に儲けることのできるハリウッドの大作映画の公開タイミングに合わせているという共通点もある。
『ミッションインポッシブル2』も『トランスフォーマー』も、すでに製作段階から注目を集めていたハリウッド大作である。さらに、2016年と2018年の値上げはちょうど『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)と『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)の公開の少し前に行われている。
物価上昇率よりも突出
冒頭にも書いたように、筆者が初めて韓国で映画を見た当時は、6000ウォンだった。しかしその20年後、今回の値上げでちょうど2倍の12000ウォンになってしまった。
具体的に、映画料金価格の上昇は他の物価に対してどのくらい比例しているのだろう。韓国消費者団協議会は、「2013年~2017年まで消費者物価上昇率は5%なのに対し、映画観覧料金は9.9%も上昇している」と物価上昇と比較して映画料金値上げが突出している点を問題視している。
映画ファンにとって、料金値上げは懐が痛むニュースではあるが、一方で今回の値上げはコロナ禍の影響による側面もあり、やむを得ないといわざるを得ない。実際、韓国3大メジャーシネコンの1つであるロッテシネマは10月20日、全国20%の映画館を閉館することを発表した。
ロッテシネマは、シネコンチェーンの運営のほかに、自社で映画制作も行っている。これはつまり、自社製作の映画を公開しても今後は20%売り上げが落ちるということを意味する。これからロッテシネマ制作の映画の本数や製作費にも影響が出てくる可能性があるだろう。映画業界はギリギリの選択を迫られているのだ。
韓国でも映画は高額な娯楽になってしまうのか?
日本では、2019年の6月になんと26年ぶりのシネコンチェーンの映画観覧料100円値上げが行われ話題となった。日本の映画館関係者は口をそろえて、「値上げしても高くはない。妥当な価格だ」と言うが、実際何の割引きもなしに映画を見に行くのは、少々高額な娯楽になりつつある。
それ故、観客は映画を吟味し、1900円払って駄作を見ないように、リスク回避をして作品を選ぶようになり、前情報を詰め込んで映画館に足を運ぶようになってしまった。
韓国ではこれまで、映画は日本に比べもっとカジュアルな娯楽だった。何を見るかも決めず、映画館に集合し上映開始時間とポスターなどの雰囲気で映画を観ることが多く、作品選びの冒険もしやすかった。よく韓国と日本の映画ポスターの比較の話題が出るが、情報量の多い日本のポスターより、韓国では作品の雰囲気を重要視してポスターを作るのは、そのせいでもある。
しかし、映画料金の値上がりが今後も続くと、韓国も身近だった映画が少し遠のいてしまうのではないか。よい意味でカジュアルだった韓国民と映画館の関係が崩れないことを願うばかりである。