最新記事

BTSが変えた世界

グラミー賞ノミネートのBTSとその音楽がこんなにも愛される理由

RESPECT YOURSELF!

2020年11月25日(水)11時25分
竹田ダニエル(音楽エージェント、ライター)

9月末に米番組『トゥナイト・ショー』に出演したとき、彼らは韓服を着て、自分たちの文化を象徴する宮殿の前でパフォーマンスした。歌ったのは、まさに「自分のやりたいことをやる。自分自身を愛している」というメッセージが込められた曲「IDOL」。

マッチョな欧米価値基準では「負け組の弱者」とされていたアジア人男性が、あえてしなやかさや優雅さを際立たせるヒラヒラとした韓服とスーツを融合させたスタイリングで「自分を愛する」ことを韓国語で歌って踊る姿に、筆者は衝撃を受けた。

同時に、このように数々の壁を乗り越え、新たなエンパワメントの形を彼らは築き続けているのだと、強く実感した。

BTSの特徴は「アーティスト」としてメンバー自らがプロデュースや振り付け、演出、コンテンツの制作に関わり、パーソナルな体験やメッセージを作品に詰め込んでいることだ。メンタルヘルスやジェンダー、若者を取り巻く社会問題などにもオープンに言及し、その個性的なスタンスが共感を呼んでいる。

そんな彼らの魅力を凝縮したのが、11月20日発売の新アルバム『BE(Deluxe Edition)』だ。

企画段階から作詞作曲、ジャケットやミュージックビデオまで、アルバムのあらゆる部分にメンバー自身が携わることで、かつてないほど「BTSらしい作品」に仕上がっている。また、アルバムの作業過程を日常的にSNSやYouTubeで公開し、ファンとの新しい形のコミュニケーションを図り続け、「最初から最後まで自分たちの手で作品を作りたい」という彼らの夢を実現させている。

今年2月にリリースされた4枚目のアルバム『MAP OF THE SOUL:7』と「Dynamite」を経て生まれた『BE』は誠実さと親密さにあふれ、リスナーに寄り添いながら繊細でリアルな物語を伝えている。

8曲を通してレトロポップからフューチャーハウス、ゴスペルやヒップホップまで、音楽的なジャンルを自由に行き来し、まるでパンデミックによって私たちの生活や感情が目まぐるしく変化していった様子を表現しているようだ。

さらにブラストラックスやコスモズミッドナイトなど、R&B・ヒップホップ界で注目株のプロデューサーを起用することで、多様で洗練されたサウンドを実現している。

アルバムの中心的なテーマは「Life Goes On(人生は続く)」。コロナ禍によって無気力さに襲われた世界の中で感じた恐怖や不安といった感情を、ありのままに楽曲やMVに落とし込み、同時に歌詞や手触りの美しいボーカルのハーモニーは「絶望」ではなく「希望」に焦点を当てている。未来への期待を抱きながら歩み続けることの大切さを歌い、一貫してリスナーの手を優しく取って未来へと暖かく導く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ブラックストーン、トランプ大統領の通商政策支持

ワールド

30日間停戦、より広範な和平計画策定を可能に=ウク

ビジネス

カナダが報復関税、298億カナダドル相当の米輸入品

ビジネス

カナダ中銀0.25%利下げ、トランプ関税で「新たな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    株価下落、政権幹部不和......いきなり吹き始めたト…
  • 5
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 6
    トランプ第2期政権は支離滅裂で同盟国に無礼で中国の…
  • 7
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 8
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 9
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 10
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中