最新記事

BTSが変えた世界

グラミー賞ノミネートのBTSとその音楽がこんなにも愛される理由

RESPECT YOURSELF!

2020年11月25日(水)11時25分
竹田ダニエル(音楽エージェント、ライター)

11月20日、アルバム発売に合わせて記者会見が行われた(肩の治療中のSUGAは欠席) HEO RAN-REUTERS

<数々のKポップアイドルが全米本格進出を成し遂げられなかったなかで、なぜBTSはブレイクできたのか? BTSが新アルバム『BE』で描いたものとは? 本誌「BTSが変えた世界」特集より>

2020年、世界が新型コロナウイルスに襲われ、音楽業界は自粛に沈むなか、急成長を遂げたアーティストがBTSだ。

彼らは韓国にいながら『トゥナイト・ショー』や『MTVビデオ・ミュージック・アワーズ』など世界的なテレビ番組や授賞式に出演し、国連の会議でスピーチをし、6月に開催された生配信ライブでは100カ国以上の75万6000人を超える視聴者を動員し、ギネス記録を更新した。
20201201issue_cover200.jpg
音楽業界全体では、今も配信ライブや授賞式はコロナの状況を踏まえ、無観客である上に演出が地味目なことが多い。世界ツアーをキャンセルせざるを得なかったBTSは、そのピンチをチャンスに変えた。

比較的早くからコロナの抑え込みに成功していた韓国で新曲のMVを撮影したり、オリジナルコンテンツを収録したり、派手で手の込んだ演出によるパフォーマンス映像をアメリカの番組に提供したり――この「音楽を届ける作業」のクオリティの高さを落とさずにファンの期待に応え続けるプロフェッショナリズムこそが、BTSをコロナ禍のアメリカで目立たせるきっかけの1つになった。そしてその映像がSNSで拡散されたことで、さらに爆発的な注目を集めた。

8月にリリースされた新曲「Dynamite」でも米ビルボードシングルチャートの1位を取るなど、その他多数の記録を残している。アイドルでありアーティストである彼らは間違いなく、世界がいま必要としている唯一無二の存在だ。

彼らがなぜ特別であるかを説明するには、「人気」「売れている」というよりも、「愛されている」という言葉を使うほうが適切だろう。スマートフォンで音楽に無限にアクセスできる大量消費時代にBTSが輝ける鍵は、彼らが決して単純な消費で終わらず、代替不可能な存在として「持続的な信頼」を得ていることにある。

洋楽を模倣した浅いラブソングではなく、音楽的なジャンルを超越しながら自分を愛することの大切さ(「LOVE YOURSELF」シリーズ)や生きる上での哲学的な悩み(「MAP OF THE SOUL」シリーズ)など、その時々で伝えたいメッセージを突き付ける。

さまざまな解釈が生まれる「人間的な深み」のある歌詞を、時に社会問題を、時に文学を元にした世界観に乗せて歌う。

タブー視されがちなメンタルヘルスについても言及し、2018年の国連総会でのスピーチに代表されるように「学び続けること」「声を上げ続けること」の大切さを常に説いている。知れば知るほど深まるその知的な魅力。彼らはARMY(BTSファン)と共に自己の探究を行い、お互いを支え合うことで生活に希望や安心感を与える存在なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中