グラミー賞ノミネートのBTSとその音楽がこんなにも愛される理由
RESPECT YOURSELF!
11月20日、アルバム発売に合わせて記者会見が行われた(肩の治療中のSUGAは欠席) HEO RAN-REUTERS
<数々のKポップアイドルが全米本格進出を成し遂げられなかったなかで、なぜBTSはブレイクできたのか? BTSが新アルバム『BE』で描いたものとは? 本誌「BTSが変えた世界」特集より>
2020年、世界が新型コロナウイルスに襲われ、音楽業界は自粛に沈むなか、急成長を遂げたアーティストがBTSだ。
彼らは韓国にいながら『トゥナイト・ショー』や『MTVビデオ・ミュージック・アワーズ』など世界的なテレビ番組や授賞式に出演し、国連の会議でスピーチをし、6月に開催された生配信ライブでは100カ国以上の75万6000人を超える視聴者を動員し、ギネス記録を更新した。
音楽業界全体では、今も配信ライブや授賞式はコロナの状況を踏まえ、無観客である上に演出が地味目なことが多い。世界ツアーをキャンセルせざるを得なかったBTSは、そのピンチをチャンスに変えた。
比較的早くからコロナの抑え込みに成功していた韓国で新曲のMVを撮影したり、オリジナルコンテンツを収録したり、派手で手の込んだ演出によるパフォーマンス映像をアメリカの番組に提供したり――この「音楽を届ける作業」のクオリティの高さを落とさずにファンの期待に応え続けるプロフェッショナリズムこそが、BTSをコロナ禍のアメリカで目立たせるきっかけの1つになった。そしてその映像がSNSで拡散されたことで、さらに爆発的な注目を集めた。
8月にリリースされた新曲「Dynamite」でも米ビルボードシングルチャートの1位を取るなど、その他多数の記録を残している。アイドルでありアーティストである彼らは間違いなく、世界がいま必要としている唯一無二の存在だ。
彼らがなぜ特別であるかを説明するには、「人気」「売れている」というよりも、「愛されている」という言葉を使うほうが適切だろう。スマートフォンで音楽に無限にアクセスできる大量消費時代にBTSが輝ける鍵は、彼らが決して単純な消費で終わらず、代替不可能な存在として「持続的な信頼」を得ていることにある。
洋楽を模倣した浅いラブソングではなく、音楽的なジャンルを超越しながら自分を愛することの大切さ(「LOVE YOURSELF」シリーズ)や生きる上での哲学的な悩み(「MAP OF THE SOUL」シリーズ)など、その時々で伝えたいメッセージを突き付ける。
さまざまな解釈が生まれる「人間的な深み」のある歌詞を、時に社会問題を、時に文学を元にした世界観に乗せて歌う。
タブー視されがちなメンタルヘルスについても言及し、2018年の国連総会でのスピーチに代表されるように「学び続けること」「声を上げ続けること」の大切さを常に説いている。知れば知るほど深まるその知的な魅力。彼らはARMY(BTSファン)と共に自己の探究を行い、お互いを支え合うことで生活に希望や安心感を与える存在なのだ。