「別の国、人種、セクシャリティーの本で孤立の時代に共感を」デービッド・ピース
背景を知れば、すごさはさらに増す。ブルガーコフはスターリン支配下の検閲制度に苦しめられ、病気と貧困に苦しんだ。本書の執筆に十数年を費やしたが、生前に出版されることはなかった。私にとっては、小説の可能性を最大限に見せつけられた作品だ。
昨今のロックダウン(都市封鎖)に「プラス面」があるとすれば、お薦め本の情報があふれ、人々が以前よりはるかに読書をしていることだ。とはいえ自分が好きな小説を挙げるのはともかく、作品を具体的に推薦することに私は慎重になっている。
むしろ推薦したいのは、私自身の読書の「経験則」。つまり2冊に1冊は自分とは共通点のない人物の著作を読み、小説を通じて他人の体験を学ぼうとすることだ。50代の白人男性でヨークシャー生まれの私なら、中国出身の小説家アイリーン・チャンの作品を読むこと。『ラスト、コーション』など、彼女の短編小説にすっかり魅了されている。
ロックダウン以前から私たちは既に人と交わらず、それぞれの空間に閉じ籠もっていた。そして今や物理的にも隔たっている。別の国や人種、異なる性別やセクシャリティーの作家の著書を読むことは共感を養う道だ。
(構成・コリン・ジョイス)
<2020年8月11日/18日号「人生を変えた55冊」特集より>
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2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか