コロナ禍の異常な現実も凌駕する『タイガーキング』の狂気の世界
Crazier Than the World Outside
エキセントリックな主人公ジョーは刑務所に入る羽目になる COURTESY NETFLIX
<大人気ネットフリックス作品の主人公はアメリカ最大の私設動物園の運営者......次々に登場するクレイジーなキャラクターは猛獣よりも危険?>
クレイジー度で現実を超えるなんて、新型コロナウイルスに襲われた今の世界では無理難題だ。ところが、ネットフリックスが3月20日に配信開始したオリジナルドキュメンタリー『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者⁈』は、そんな難問を余裕でクリアしている。
本作の主人公は、ネコ科の大型動物を集めたアメリカ最大級の私設動物園を運営するジョー・エキゾチック。自称「マレット(襟足だけ伸ばした髪形)で銃所持者のレッドネック(保守的な田舎白人層)のゲイ」だ。
落ち着いたドキュメンタリー作品でじっくり味わうに値する人物だが、監督のエリック・グッドとレベッカ・チェイクリンは本作を奇妙な面々を盛り込んだ7つのエピソードから成る饗宴に仕立て上げた。副題が「殺人と大混乱と狂気」なのも、もっともだ。
まとまりがなく、倫理的に問題のある作品でもある。大物ドキュメンタリー映画監督のエロール・モリス風の抽象的な人物描写で幕を開け、監督の1人称視点の真相追及スタイルに変化したかと思うと、おなじみのタブロイド的番組に着地する。それも開始からわずか10分の間に、だ。
最大のネタであるべき事実は、視聴者の関心を引き付けるという口実の下、早々に暴露される。おしゃべりで動物を愛するジョーは、殺人依頼などの罪で刑務所入りした身なのだ。獄中の彼との電話インタビューが各所に挟み込まれ、本作はとりとめのないまま浅ましい結末を迎える。
監督のグッドが米メディアに語っているところでは、動物の権利をテーマとする作品になるはずが、とっぴな登場人物たちに焦点を当てるようネットフリックスに要求されたという。その結果、事件の教訓をまとめるはずの終盤になる頃には、全く別物の作品を見ている気分にさせられる。
そうはいっても、これほどキャラが立った人々だらけでは、その奇矯な「生態」を啞然としながら楽しみたいという誘惑にはあらがい難い。
奇妙なキャラは、回を重ねるごとに増える一方だ。露出たっぷりの女性訓練士を集めたトラ動物園運営者のドック・アントルしかり、犯罪から足を洗おうと動物業界に乗り出す元麻薬王マリオ・タブラウエしかり、自分と妻との3Pに女性を誘い込むためのエサとして子トラを利用するラスベガスの投資家ジェフ・ロウしかり......。
病的だが魅力的な人物
ジョーの動物園の従業員の1人で、義足の男性はアウトドアでの事故で両脚を失ったと語るが、話はそこで終わり。本作は詰め込み過ぎで突っ込みが甘いまま進み、クレイジー度が足りない人々は脇に置いて、センセーショナルだが信憑性の薄い挿話にそれてばかりいる。
確かに、ジョーの人生は話題豊富で風変わり(既にポッドキャストや雑誌で取り上げられており、リアリティー番組になりかけたことも。同番組のプロデューサーも本作の登場人物の1人だ)。何度語り直しても飽きない。