最新記事

ドキュメンタリー

コロナ禍の異常な現実も凌駕する『タイガーキング』の狂気の世界

Crazier Than the World Outside

2020年5月9日(土)15時00分
サム・アダムズ

エキセントリックな主人公ジョーは刑務所に入る羽目になる COURTESY NETFLIX

<大人気ネットフリックス作品の主人公はアメリカ最大の私設動物園の運営者......次々に登場するクレイジーなキャラクターは猛獣よりも危険?>

クレイジー度で現実を超えるなんて、新型コロナウイルスに襲われた今の世界では無理難題だ。ところが、ネットフリックスが3月20日に配信開始したオリジナルドキュメンタリー『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者⁈』は、そんな難問を余裕でクリアしている。

本作の主人公は、ネコ科の大型動物を集めたアメリカ最大級の私設動物園を運営するジョー・エキゾチック。自称「マレット(襟足だけ伸ばした髪形)で銃所持者のレッドネック(保守的な田舎白人層)のゲイ」だ。

落ち着いたドキュメンタリー作品でじっくり味わうに値する人物だが、監督のエリック・グッドとレベッカ・チェイクリンは本作を奇妙な面々を盛り込んだ7つのエピソードから成る饗宴に仕立て上げた。副題が「殺人と大混乱と狂気」なのも、もっともだ。

まとまりがなく、倫理的に問題のある作品でもある。大物ドキュメンタリー映画監督のエロール・モリス風の抽象的な人物描写で幕を開け、監督の1人称視点の真相追及スタイルに変化したかと思うと、おなじみのタブロイド的番組に着地する。それも開始からわずか10分の間に、だ。

最大のネタであるべき事実は、視聴者の関心を引き付けるという口実の下、早々に暴露される。おしゃべりで動物を愛するジョーは、殺人依頼などの罪で刑務所入りした身なのだ。獄中の彼との電話インタビューが各所に挟み込まれ、本作はとりとめのないまま浅ましい結末を迎える。

監督のグッドが米メディアに語っているところでは、動物の権利をテーマとする作品になるはずが、とっぴな登場人物たちに焦点を当てるようネットフリックスに要求されたという。その結果、事件の教訓をまとめるはずの終盤になる頃には、全く別物の作品を見ている気分にさせられる。

そうはいっても、これほどキャラが立った人々だらけでは、その奇矯な「生態」を啞然としながら楽しみたいという誘惑にはあらがい難い。

奇妙なキャラは、回を重ねるごとに増える一方だ。露出たっぷりの女性訓練士を集めたトラ動物園運営者のドック・アントルしかり、犯罪から足を洗おうと動物業界に乗り出す元麻薬王マリオ・タブラウエしかり、自分と妻との3Pに女性を誘い込むためのエサとして子トラを利用するラスベガスの投資家ジェフ・ロウしかり......。

病的だが魅力的な人物

ジョーの動物園の従業員の1人で、義足の男性はアウトドアでの事故で両脚を失ったと語るが、話はそこで終わり。本作は詰め込み過ぎで突っ込みが甘いまま進み、クレイジー度が足りない人々は脇に置いて、センセーショナルだが信憑性の薄い挿話にそれてばかりいる。

確かに、ジョーの人生は話題豊富で風変わり(既にポッドキャストや雑誌で取り上げられており、リアリティー番組になりかけたことも。同番組のプロデューサーも本作の登場人物の1人だ)。何度語り直しても飽きない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中