痛快会話劇『ナイブズ・アウト』は、古くて新しい名探偵の謎解きドラマ
Reinventing the Whodunit for the Trump Era
甘やかされて他人に無関心なスロンビー家の人々は、ごく小さなやりとりでも階級格差を見せつける。それは面白くもあり、ぞっとするほど冷たくもある。マルタの母親は不法移民で、娘が警察沙汰に巻き込まれたら国外退去になりかねない。
移民政策をめぐり、家族の中でドナルド・トランプ米大統領を支持する人々とリベラル寄りの人々が議論する場面がある。ただし、そこに義憤はない。社会の変化より、自分の領域を守って富を蓄積することが大切なのだ。
事件については、クライマックスで探偵が「こうしてお集まりいただいたのは......」と真実を解き明かすのではなく、物語の中盤で(完全にではないが)詳細に説明される。その後はさらにフラッシュバックの映像が続き、事件の異なる側面が浮かび上がる。
やがて、小競り合いを続けるスロンビー家の人々より、マルタが優位になっていく。取引と妄想と強欲に翻弄される世界で、ハーランを1人の人間として敬愛してきた彼女は、時にスーパーヒーローより強い。登場人物の関係が微妙に変わり、最後は──マルタが亡き主のマグカップを手に、屋敷のバルコニーで満足げにたたずんでいる。
クレイグの演技はやり過ぎの感もある。だが全ての俳優が、特にクレイグ、カーティス、エバンスは、ジョンソンによる毒気の強い痛快な会話を存分に楽しんでいるようだ。
ジョンソンが監督・脚本を手掛けた2017年の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、性差別や人種差別をめぐって「熱心なファン」によるオンライン上の激論を誘発した一方で、スター・ウォーズの世界を21世紀版に見事にアップデートしてみせた。
とはいえ、46歳にして長編監督5作目ながら多彩な才能を誇るジョンソンに、私としては、スター・ウォーズ新3部作に関与してほしくなかった。最も脂の乗った時期に、超大作シリーズで貴重な機会を無駄にしてほしくないのだ。
ライアン・ジョンソンのミュージカルを、ライアン・ジョンソンの西部劇を、ライアン・ジョンソンの恋愛ドラマを、見たいではないか。
KNIVES OUT
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
監督/ライアン・ジョンソン
主演/ダニエル・クレイグ、アナ・デ・アルマス
日本公開は1月31日
©2019 The Slate Group
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