痛快会話劇『ナイブズ・アウト』は、古くて新しい名探偵の謎解きドラマ
Reinventing the Whodunit for the Trump Era
名探偵ブラン(ダニエル・クレイグ)が暴く殺人事件と家族の真実 MOTION PICTURE ARTWORK ©2019 LIONS GATE ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
<セレブな家長が殺され、家族は全員ワケありで容疑者――超定番の推理劇をライアン・ジョンソン監督が現代的に演出した>
「この男は『クルー』のゲーム盤の中で暮らしていたんだな」。著名なミステリー作家ハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)が遺体で発見され、現場を検証していたエリオット警部補(ラキース・スタンフィールド)が相棒に言う。
スロンビーのビクトリア様式の邸宅は、さながら迷宮だ。秘密の通路があり、アンティークの不気味な置物が並んでいて、ビンテージの短剣のコレクションが飾られている。屋敷の主が殺された事件の謎を解くボードゲーム「クルー」の世界そのものだ。
同時に、エリオットのセリフはこの映画の特徴を切り取っている。ライアン・ジョンソン監督が「アガサ・クリスティーにささげる」スタイルで撮ったという『ナイブズ・アウト』は、名だたる俳優が勢ぞろいして、典型的な謎解きドラマに敬意を払いながら大いに楽しんでいる。
85歳の誕生日を家族と共に祝った翌朝、ハーランは喉を切られて死んでいた。当初は自殺かと思われたが、匿名の人物から依頼を受けた名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が登場する。
家族がそれぞれ事情聴取で前夜の様子を語りながら、各人のプロフィールがテンポよく紹介されて、全員に殺人の動機があることが分かってくる。長女リンダ(ジェイミー・リー・カーティス)は冷淡な不動産業経営者で、自力で成功したというアピールに余念がないが、事業を始める際に父親から100万ドルの融資を受けている。
父親の跡を継いで出版社を経営している次男ウォルト(マイケル・シャノン)はメディアの大物気取りだが、実際は無能のおべっか使いにすぎない。ハーランの亡き長男の妻ジョニ(トニ・コレット)は落ち着きがなく、義父の資産を当てにして化粧品事業を営んでいる。
うさんくさい家族の中で唯一、慎みを保っているのは、ハーランの専属看護師マルタ( アナ・デ・アルマス)だ。型破りの探偵ブランは、亡き雇い主に心から尽くしていたマルタの献身と「嘘発見器」(彼女は自分が嘘をつくと嘔吐するという特殊体質の持ち主なのだ)の助けを借りて、事件の真相に迫る。
毒気の強い痛快な会話劇
家族の裏切りの動機が見えてきた頃、長女夫婦の放蕩息子ランサム(クリス・エバンスがダメ男を見事に演じている)が突然現れて、マルタと共に真実を探り始める(彼は本当に味方なのか?)。
変わり者の容疑者だらけで、さまざまな人物の視点からのフラッシュバックの映像が続く構成は、観客にとって気持ちいいほどレトロかもしれない。ただし、脚本も手掛けたジョンソンは、伝統的な謎解きドラマを驚くほど現代的かつ政治的に演出している。