ヒトラーは少年の空想上の友達──異色コメディー『ジョジョ・ラビット』
Disney’s Controversial Hitler Movie
この映画の核心は、ジョジョと(本物または空想上の)ヒトラーとの関係ではない。少年が見つけた自宅アパートの隠し部屋に住むユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)との関係だ。
母親のロージー(スカーレット・ヨハンソン)は、息子の前では秘密にしていたが、ナチスの第三帝国に明確に反対の立場で、ジョジョの言動に心を痛めていた(かわいい息子に何があったのかといぶかる様子は、現代アメリカでオルト・ライト〔新右翼〕に心酔する若者の親たちを思わせる)。
したたかなエルサは、ユダヤ人には悪魔の力があると信じるジョジョの思い込みを逆手に取り、少年を脅して秘密を守らせると同時に、外部の情報を手に入れようとする。一方、空想上の総統を喜ばせたいと願っているジョジョは、実際には落ちこぼれのファシストで、ウサギを殺す冷酷さもない(そのせいで「ラビット」という侮蔑的なあだ名を付けられた)。彼は自分ではエルサから情報を引き出し、ユダヤ人の秘密を上官と共有しているつもりだが、実際には心の中で妄想を積み上げているにすぎない。
映画はユーモアにあふれている。例えば「ユダヤ人だ!」というセリフの直後に、「神の祝福を」が続く。ナチスの青少年組織ヒトラーユーゲントに入隊できない別の落ちこぼれ──分厚い丸メガネの太った少年と、ジョジョの友情も笑いを誘う。
しかし、ワイティティはナチスを軽く扱ってはいない。『ジョジョ・ラビット』の笑いは問題を矮小化するためではなく、分析するための手段だ。憎悪のイデオロギーが快感として受け入れられていく過程を掘り下げ、ファシストの提示する世界観が子供の妄想と同程度の底の浅い解釈にすぎないことを暴き出す。
『ジョジョ・ラビット』は難解な映画ではないが、難しい問いを投げ掛けている。
JOJO RABBIT
『ジョジョ・ラビット』
監督╱タイカ・ワイティティ
主演╱ローマン・グリフィン・デイビス、トーマシン・マッケンジー
日本公開は1月17日
©2020 The Slate Group
<本誌2020年1月21日号掲載>
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