「アイル・ビー・バック」のせりふと共にターミネーターの時代が終わった
Now Time for Termination?
猛烈に長いカーチェイスの後、ダニーの護衛にもう1人の女性が加わる。グレーの髪、不機嫌そうな表情、そしてロケットランチャーで武装した彼女。そう、お待ちかねのサラ・コナーだ。
ハミルトンが再びこの役を演じるのを見るのは素晴らしい。彼女と、後で登場するごま塩ひげを生やしたシュワルツェネッガーがそこにいるだけで醸し出される懐かしさがなければ、この作品は成り立たない。
サラは過去22年の人生を振り返って「ターミネーターを狩り、気絶するまで飲むような日々」と素っ気なく語る。しかし観客が、その暗い日常を具体的に目にすることは決してない。
私は彼女に、人生について長い告白をしてほしいと言っているわけではない。でも、この映画がフェミニスト的な主張で称賛を得たいなら、ヒロインの帰還を描く際に、彼女がこれまで経験したことと、その影響を示すエピソードがもう少し欲しかった。
シュワルツェネッガーの存在は作品に明るさをもたらし、ハミルトンと一緒にいる場面は活気に満ちている。それはシリーズ初期の傑作における2人の関係を観客に思い起こさせるからだ。
最後のタイムトラベル
未来から来たグレースは、柳のようにしなやかな体を冷酷な戦闘兵器に変えるサイバー強化能力を発揮する。ターミネーターと戦うヒーロー役を若い女性に代えたことは、シリーズがその目的と観客層を考え直した表れかもしれない。さらに、彼女が守るべき対象を有色人種の女性に設定したことで、作品に本当の意味で政治的なメッセージを持たせられる可能性もあった。
ところが本作は、テクノロジーにもディストピアや性差別、人種にも、さらにはタイムトラベルの論理的整合性にも関心がないようだ。結局、見どころはアクションくらいしかなく、映画の主人公である3人の女性のことはほとんど考えていない。
大ヒットシリーズとあって、あまりにも有名な「アイル・ビー・バック」というせりふは2つの場面で使われている。このせりふを口にする登場人物の1人は、そのまま文字どおりの意味で言う。だがもう1人はこのせりふを否定形で使う。
2人のどちらが正しいかは、興行収入が決めてくれるだろう。私としては『ターミネーター』シリーズを完全に終わらせてもらって構わない。もうこれ以上、青い球体で新たな殺し屋や女性を過去に戻す必要はない。
TERMINATOR: DARK FATE
『ターミネーター:ニュー・フェイト』
監督/ティム・ミラー
主演/アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン
日本公開中
©2019 The Slate Group
<本誌2019年11月19日号掲載>
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